東日本大震災、英ロンドンの倉庫火災、タイの洪水被害…。ソニーを襲った「六重苦」で、900億円の赤字はさらに悪化か。1000億円規模の新規事業で一発逆転に賭ける。

 ソニーが「六重苦」に見舞われている。高い法人税や電気料金、円高など、日本経済を襲う「六重苦」とは違う。ハワード・ストリンガー会長兼社長は、今年を次のように振り返る。

 「3月の東日本大震災で東北の工場が津波で浸水し、4月に個人情報流出事件があり、そして8月には英ロンドンの暴動で倉庫が炎上した。1ドル=70円台の円高や、不況にも見舞われている」。本誌の取材で、ソニーが抱える5つの苦難を次々と挙げていった。

 だが、受難はこれで終わらなかった。10月、タイの工場が洪水被害に遭う。同国にある3工場のうちデジタルカメラや画像センサーを製造する2工場が操業停止に追い込まれてしまった。

 これはソニーにとって痛手となった。不振が続くエレクトロニクス事業にあって、デジタルカメラは個人向けの製品を扱う「コンスーマープロダクツ&サービス(CPS)」部門、画像センサーは法人向け製品を扱う「プロフェッショナル・デバイス&ソリューション(PDS)」部門の収益を下支えする、数少ない高収益事業だった。しかしデジカメの発売は延期となり、洪水被害は営業損益で250億円のマイナス要因となっている。

 そもそも主力のテレビ事業が不振だったところに、今回の洪水被害もあって、今年度は900億円の最終赤字になると予想される。

 ソニーにとって、収益の柱であるPDSが不振に陥った影響は深刻だ。PDSが昨年度に稼いだ営業利益は276億5000万円と、CPSの約2.5倍に上る。PDS担当の吉岡浩副社長に洪水被害の影響を聞くと、「今年度の業績は厳しいものになる」と認める。今期の最終赤字は、予想数字の900億円からさらに悪化する恐れもある。

エレクトロニクスは絶不調
ソニーの7~9月期の営業損益

 来年度以降の収益にも暗い影を落とす。ソニーは円高に対応するために来年から、スマートフォンやタブレット端末に搭載するカメラモジュールをタイで生産する予定だったが、水害によって計画の再検討を余儀なくされている。生産体制の整備が遅れれば、急拡大するスマートフォンやタブレット端末の需要を取り逃がしてしまう恐れもある。

「1000億円クラブ」に賭ける

エレクトロニクス部門の不振が深まる。「1000億円クラブ」で業績回復を狙う吉岡浩副社長
写真:室川 イサオ

 先行きの不透明感が増す中、PDSでは6月に「PDSGイノベーションセンター」という新組織を立ち上げた。3~5年後に売上高で1000億円規模に成長する可能性がある新規事業を見つけ、育てていくことが狙いだ。センター長を務める吉岡副社長は、「エネルギー関連、監視カメラ、医療用機器など現在、社内で『1000億円クラブ』と呼ばれる5つの新規事業が有力候補に挙がっている」と明かす。

 一方、CPSでもテコ入れが始まっている。8月に「統合UX開発部門」という組織横断的なチームを立ち上げた。「UX(顧客体験)」をキーワードに、縦割りの製品企画の手法を見直す。

 UXで個人向けの人気商品を次々と開発し、「1000億円クラブ」で法人向けの大事業を生み出していく──。この2つの新組織が、思い描いているような大ヒットを連発していかなければ、ソニーが苦悩から解き放たれる日は、さらに遠のいてしまうだろう。

(吉野 次郎)

日経ビジネス2011年12月5日号 15ページより目次

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