経済政策への不満を訴えるデモが米国で長期化している。オバマ政権は雇用対策を打ち出すが、政治的思惑も。没落する中間層、高失業率が政府への失望を増幅させている。

 「オバマに雇用が増やせるかって?それは無理に決まってる。雇用を増やすのは経済なんだよ。オバマじゃない」

 9月中旬に始まり、なお続く米国のデモ活動「ウォール街を占拠せよ*1」。コネティカット州からニューヨークのデモに参加するため、毎日1時間以上かけて通っているというデービッド・ミチャンスキーさんは、バラク・オバマ政権を一刀両断にこう切り捨てた。

*1=Occupy Wall Street

 このデモはニューヨークのみならず、首都ワシントン、シカゴ、ロサンゼルスなど全米に広がっている。特徴的なのはそのスタイルで、明確なリーダーを置かず、合議によって活動内容を決めるという。

 始まって約1カ月、警察との小競り合いや橋の不法占拠などで逮捕者は出しているが、ニューヨークでは1つの「観光名所」になりつつある。デモや関連イベントをカメラ片手に眺めていく観光客も少なくない。

 これまでに、映画監督のマイケル・ムーア氏やノーベル経済学賞受賞のジョセフ・スティグリッツ教授(米コロンビア大学)など著名人もデモの拠点を訪れたほか、全米自動車労働組合(UAW)など有力組合が支持を表明した。デモの「知名度」が上がるにつれて、反戦を訴える者、特定企業の批判を展開する者、中国の民主化を訴える者など、様々な参加者が加わっている。

 規模の拡大とともにアピールする内容は多様化しているが、中核はやはり現在の米国経済のあり方に対する異議申し立てだ。それは、拠点となっているズコッティ公園のあちこちで見られる「We are the 99%」という言葉に集約される。意味するのは拡大が指摘される所得格差。スティグリッツ教授も「米国人の1%が国全体の所得の25%を受け取っている」と言う。「We are the 99%」というのは、米国の富を独り占めする1%の富裕層と比べた不公平感をアピールするキーワードだ。

富裕層に富が偏る米経済のあり方に疑問を呈するデービッド・ミチャンスキーさん

 かつての豊かな米国の象徴だった中間層は没落し、リーマンショック後の失業率は高止まりしたまま。9月の雇用統計では雇用の増加数こそ市場の事前予想を上回ったが、失業率は9.1%と前月比横ばいに終わった。

 もちろん、オバマ政権も経済政策への批判を強く意識している。支持率の低迷で2012年大統領選での再選を危ぶむ見方すら出る中、ここへきて積極策に打って出ている。9月には4470億ドル(約34兆円)規模の雇用対策を提案。財政赤字の削減計画では富裕層への増税を盛り込んだ。雇用対策に加え、これまで指摘されてきた格差拡大を解消しようという言動を強めている。

「アメリカンドリームは終わった」

 ただし、これには政治的な狙いを指摘する声もある。増税については野党共和党、とりわけ小さな政府を志向するティーパーティー(茶会党)からの抵抗が確実視されている。米国債格下げのきっかけとなった債務上限引き上げを議論した際も同じ構図だった。

 共和党がのみにくい増税案をあえて持ち出したのは、来年の大統領選を意識したからだと言われている。富裕層への増税をのませることができれば自らの得点、できなければ「共和党が蹴った」と攻撃できるというわけだ。

 こうした政治のせめぎ合いの一方、米連邦準備理事会のベン・バーナンキ議長は「金融政策は非常に強力な手段であるが、万能薬ではない」と政府や議会にクギを刺している。

 ワシントンがそれぞれの思惑で動く中、「職探しに疲れた」という失業中のデモ参加者の1人(ニューヨーク在住の28歳男性)はこうつぶやいた。

 「僕のような人にはもうアメリカンドリームなんて終わった話じゃないかな。お金持ちに生まれない限り、財産なんて築けない」

(ニューヨーク支局 細田 孝宏、マイケル・センズィン)
日経ビジネス2011年10月17日号 100ページより目次

この記事はシリーズ「世界鳥瞰(2011年10月17日号)」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。