2012年から小型航空機「ホンダジェット」の量産を開始します。燃費は同クラスの従来機を15~20%も上回り、キャビン(客室)は25~30%も広い。座席は1クラス上のビジネスジェット並みのゆとりがあります。ライバルを圧倒できると考えています。

 技術が成熟した航空機産業では、3%とか5%の改善でも画期的なこと。それをはるかに上回る性能向上を実現できたのは、機体後部に配置するのが当たり前だったエンジンを、主翼の上に持ってきたことが大きい。これが、高速飛行時の巡航効率を高めると同時に、広いキャビンの確保につながりました。

 最初は誰もが「前例がない」「聞いたことがない」と懐疑的でした。我々の試験を見ていた米ボーイングの技術者たちも「ホンダは何をバカなことをやっているんだ」と話していたくらいです。スキーのジャンプ競技で言えば、両足のスキーを平行にして飛んでいたところにV字飛行を持ち出したようなものでしょうか。それでも、シミュレーションを繰り返し、最終的に最適配置を見つけることができました。

 既存機のようにエンジンを後ろに配置しても3%とか5%の改善はできたと思います。だが、その程度の改善なら他社もやってきます。ホンダがやる以上、今までにない新しい価値を生み出さないと意味がない。「スピードが速い」とか「高い高度で飛べる」だけではなく、飛躍的にビジネスジェットを進歩させたいと考えたんです。

 美しさにもこだわり、機体のチェックもホンダ流にしました。業界の常識では3フィート(約91cm)離れて外観に傷がないかを調べるのですが、それを3インチ(約7.6cm)にしました。コンセプトは「クルマのボンネットのようにきれいに反射する機体」です。

 また、このクラスのビジネスジェットには仕切りがカーテンだけの緊急用トイレしかなく、それが普通とされてきました。でも、それでは女性は敬遠します。ビジネスジェットは奥さんが購買に影響を及ぼしますから、きちんとしたトイレも重要です。ホンダジェットではドアで仕切るトイレを設置しています。それもキャビンを広く取れたから可能になりました。

自前主義を貫いた理由

 1986年に航空機の研究を始めて以来、独自の開発ができたのは、ゼロから自分たちで取り組んだことが大きかったと思います。

 多くの人から「中途採用で経験者を入れたらどうか」「他社の技術を採用したらどうか」と言われました。でも自分たちでやらないと、どこが技術の肝になるのかが体感的に理解できません。

 自分自身、25年やってきて分かりましたが、理論と実際が一致しないこともしばしばです。特に航空機の場合は米当局との折衝も多い。自分で本当に理解したうえで交渉しないと相手からは信頼されません。

 ホンダジェットを1時間飛ばすと、費用は1000ドル強と見ています。4人で使えば1人300ドル程度。航空会社の近距離便でも前日にチケットを買ったら800ドルなどになるのですから、普通のエアラインと変わらない水準と言えます。お金持ちや大企業のトップでなくてもビジネスジェットを使う時代になるでしょう。

ホンダジェットと藤野道格社長。価格は450万ドル。既に100機を超える受注を獲得している(写真:常盤 武彦)

 特に米国では家族と過ごす時間を大切にします。定期便では1泊しなければならない区間が、ビジネスジェットで日帰りできるのであれば、日帰りを選ぶようになるはずです。(談)

(聞き手は ニューヨーク支局 細田 孝宏)
日経ビジネス2011年10月10日号 45ページより

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