(写真:木村 輝)

 稼げる技術の筆頭に「炭素繊維」を挙げたい。炭素繊維は、あらゆる産業で使われる可能性を秘めています。クルマや航空機の軽量化や風力発電などは、ごく一部にすぎません。

 企業は四半期ごとに、やれ儲かったの儲からなかったのと、業績に一喜一憂しがちです。そんな環境にあって炭素繊維は、日本人が30~40年という長い歳月をかけて生み出したテクノロジーです。台湾や欧米でも多少は開発されているものの、原料から製品まで手がけているのは、現時点では日本企業だけ。近い将来、日本を支える技術の1つになるでしょう。

 このほか伸びそうなのが、次世代の太陽電池である「有機薄膜太陽電池」や「リチウムイオン電池」です。3000度もの高温に耐えられる「ニードルコークス」などの新素材にも注目しています。

次の10年のキーワードは「炭素」

 これらすべてに共通するのは「炭素」(カーボン)を使った技術であることです。有機薄膜太陽電池には、60個の炭素がサッカーボールの形のように結合したフラーレンを使う。リチウムイオン電池の負極材料は黒鉛です。ニードルコークスは石炭から作り、電炉の電極などに使います。

 炭素は、結晶構造によってダイヤモンドにもなれば黒鉛にもなる。糸を引けば炭素繊維です。カーボンケミストリーは、日本が高い競争力を持てる有力技術。21世紀はカーボンの時代だからこそ、錬金術師ならぬ「錬炭素術師」になれば、確実に稼げる技術を生み出せるはずです。

 「人工光合成」にも大いに注目しています。

 人類が豊かな生活を送ることができるのは化石燃料、言い換えれば、先ほどお話しした炭素に水素と酸素が結合した炭化水素があるからです。人類は炭化水素を燃やして燃料にしたり、化学反応させてプラスチックなどの素材を作ったりしてきました。

 ですが、化石燃料を安価に調達できる期間はそう長くは続きません。石油をリーズナブルな価格で入手できるのは、せいぜいあと10年。埋蔵量から考えても、40~50年というところでしょう。石炭で120年、シェールガスで埋蔵量が増えた天然ガスも100年程度でしょう。

 一方で、化石燃料を燃焼させた際に発生するCO2(二酸化炭素)の増大は、地球温暖化を引き起こしていると問題視されています。このままでは、豊かな生活を維持できなくなるんです。

 それでも人類が豊かな生活を維持するには、人工光合成が不可欠です。

 植物がCO2と水と太陽から炭化水素を生み出すのと同じことを、光触媒などを使って人工的にやろうという技術です。CO2と水素と光から、石油化学コンビナートで作っているものと同じ炭化水素を作ることができれば、それをもとに機能材料や繊維材料も製造できます。

三菱ケミカルホールディングスの有望技術
  • 炭素繊維
  • 有機薄膜太陽電池
  • リチウムイオン電池
  • 人工光合成
  • ヘルスケア
(左)リチウムイオン電池に使う負極材料の黒鉛。
(右)次世代太陽電池の有機薄膜太陽電池(写真:木村 輝)
(右)は炭素繊維。(左)は炭素繊維から作った半導体製造装置の部品。成型は自在で、軽くて強い(写真:木村 輝)

 ノーベル化学賞を受賞した根岸英一先生も、最後の仕事と人工光合成に取り組んでいます。当社も東京大学と研究を進めています。人類がひ孫の時代でも幸せに生きていくためにはこの技術をモノにするしかないのです。

研究開発はマラソンではない

 稼げる技術を生み育てるには、いくつかのポイントがあると思います。

 1つは絞り込みです。私が社長に就任した頃、当社の基礎研究テーマは300ほどありましたが、その後の4年半で20~30に限定しました。現在は、新エネルギーと環境、ヘルスケアの3分野に重点を置いています。

 また、開発競争をマラソンだと思ってはダメです。常に前へ前へと全速力で走り続けなければいけません。慢心しては途端に追いつかれてしまうのが技術の世界です。

 私が研究してきた光ディスクがそうでした。新しい染料や色素を開発し、台湾や中国の先を走ってきました。でもわずかでも安心していると、すぐに彼らは追いついてきて、儲からない市場になる。そのうち、全く新しい記憶媒体が登場してジ・エンドになってしまった。

 当時より新興国がはるかに力をつけた今では、素材を本質的に変えるような画期的新技術を開発し続けなければ、日本のような先進国は生きていけないと思います。

 「新技術ができたらブラックボックス化したり、特許を固めるなどして長く儲ければいい」といった考えは、私から言わせれば理想論にすぎません。

 今の時代、素材は分析すれば原料のレシピはすぐ分かります。クルマだって分解すればいい。技術を隠すなんて不可能なのです。確かに特許は重要ですが、せいぜいもって数年。20~30年先を考えるなら、やはり新しいものを生み続けるしかない。

 その意味では、技術を生かして企業を成長させようとするならば、開発競争は100m走の繰り返しと考えるべきです。たとえ開発に30年かかるとしても、短距離走の連続なのです。

 となれば、経営者の覚悟と根気が欠かせません。疲れてしまったら、世代交代するしかない。海外の経営者が若いのは、元気であることが経営者の必須要件だからです。年寄りだからダメという考え方は好きではありませんが、気持ちが若くないといけないのは事実です。

 日本企業は魅力のある技術をたくさん持っています。中国企業の経営者などと話をすると、とにかく日本の技術を欲しがる。自信を失う必要はありません。やり方次第で、稼げる技術は今後も必ず生まれます。

(談)
日経ビジネス2011年10月10日号 36~37ページより

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