(写真:吉田 竜司)

堀場製作所の本業は分析・計測機器の開発です。世の中のあらゆる物質の成分を、正確かつ簡単に安く分析する需要はいつの時代もなくならない。それなら、人々が必要としている分析技術をとことん追求し続けよう──。そんな信念で1953年の設立以来、事業を続けてきました。

 この半世紀以上の間、結果的に様々な追い風が吹きました。

 戦後の食料大増産の時代には、コメの肥料となる質のいい「硫安」が必要でした。そこで、原料となる硫酸とアンモニアをうまく配合させるためのPH(ペーハー)計測器を開発して、世の中から評価されました。

 その後、環境意識の高まりを受けてダイオキシンや自動車の排ガスの計測器が売れました。そして、今日では放射線です。時代の変遷とともに計測対象は変わりましたが、技術の土台は変わりませんでした。

 自分の信念に基づき、本物の技術さえ磨き続けていれば、いつかは必要とされる。技術屋の商売とはそんなものです。重要なのは、正しい信念を持ち続けることでしょう。

 日本の研究開発力が低下していると懸念する声がありますが、私は悲観していません。日本人は凝り性で、やり出したら止まらない。なぜ、世界で日本製品が売れるか分かりますか。信頼性があるからです。これは何物にも替え難いこの国の武器です。

農業を日本の基幹産業にせよ

 だが一方で、5~10年先の日本の産業をどうすべきかという、もっと大きなビジョンは打ち出す必要があると思います。これは政府の役目ですが、日本はここが遅れている。

 米国が自動車や家電で日本に負け、産業の軸をIT(情報技術)などに素早く切り替えたように、日本も次の方向性を早く見つけないといけません。

 個人的には、農業を基幹産業に育てるべきだと考えています。

 日本の農業は世界と戦う技術力を持っています。1980年代にオレンジの輸入が自由化され、米国から安い柑橘類が入ってきました。当時、日本のミカン農家は全滅すると言われましたが、結果はどうでしょう。値段は高くてもおいしく、食べやすいミカンを作るために農家が知恵を絞り、今では世界に品質が認められています。

 コメだってそうすればいいんです。オレンジと異なり、農林水産省は戦後一貫して、農家保護を名目にして輸入品に高い関税障壁を設け、国産のコメを守ってきました。

 しかし、これでは「努力しなくていい。遊んでいなさい」と言っているようなものです。技術を磨こうという若者はなかなか入ってきません。

 農業技術が発展すれば、味が良くなるだけでなく、もっと健康に良い食べ物を作ることもできるはずです。少子高齢化でカネがかかる世の中だと言われていますが、高齢者が健康で、死ぬ間際まで働けるようになれば医療や介護にかかるカネは減り、財政への負担も和らぎます。

 日本の自動車産業が世界一になったのは競争して、技術を磨いたからです。コメとは正反対に、経済産業省は国内メーカーの国際競争力を高めようと、長期間にわたって輸入車の関税を徐々に下げていきました。

 いつまでもテレビや白物家電にしがみついているのではなく、新たな成長産業に軸足を移し、再び切磋琢磨することです。そうすれば、日本の技術力は今後も全体として、世界一の水準を維持し続けるはずです。(談)

日経ビジネス2011年10月10日号 31ページより

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