グローバル市場に狙いを定め、戦略を明確にする。その要諦を、竹内弘高・ハーバード大学大学院教授、梅澤高明・A.T.カーニー日本代表、水越豊・ボストンコンサルティンググループ日本代表、大薗恵美・一橋大学教授に聞いた。(聞き手は 本誌編集長 山川 龍雄)

 山川 日本企業がグローバル競争を勝ち抜く条件とは何でしょうか。

今の経営者は暗すぎる 未来はバラ色と信じよう
――竹内 弘高[ハーバード大学経営大学院教授]

竹内 弘高[ハーバード大学経営大学院教授](写真:村田 和聡)

 竹内 今、日本企業に求められているのは、新産業や市場をグローバル規模で作ることです。好例は米アップル。彼らは一言で言うと、新しいグローバルスタンダードを作り出しました。

 日本でも1960年代や70年代にはビジョンの明確な産業政策がありましたが、時代を経るごとに不明瞭になってしまった。一方で、世界はますます相互に結びつき合い、なおかつ変化のスピードも加速している。そういう状況で日本企業がエンジンをかけ直すとすれば、「どういう将来を作るのか」というビジョンをいま一度、描き直さなければならなりません。

 水越 確かに、かつて日本はグローバルでも成功していました。そこそこの製品を、安価に、安定的に供給していれば勝てたからです。ただ、こうした役割は終わりつつある。

 改めて世界を眺めると、グローバルに付加価値を認められている日本企業というのは実は少ない。その要因を一言で言えば、戦略的じゃないからです。

 大薗 少なくとも「国内で成長ができなくなったから海外」という発想では失敗するでしょう。何のためにそこに行くのか、行って何がしたいのか、その戦略を明確にしないといけないでしょうね。

 梅澤 もちろん新しい産業を作り出すような大きなイノベーションができればベストですが、もう少しベーシックな意味でも、もっと戦略的にならないととても勝ち抜けません。世界中の市場にリーチを伸ばしていますが、戦線ばかりが広がって負けが込んでいる。結局、資源が枯渇して新たな投資ができず、1つの市場で圧倒的に強い企業に投資競争で後れを取ってしまう。

 水越 もう1つは、どこまでやったら成功するのかですね。何をやるかじゃなく、どこまでやるか。今までは国内など狭いリージョンで上位であれば生き抜けた。でも急速にグローバル化が進む中で、国体の優勝では生きていけなくなっている。オリンピックでメダルを取れないと生きていけない。

経営者の仕事は優れた仮説作り

 竹内 戦略には2つの側面があると思います。私の授業では、ホンダのケーススタディーを2つ用意して学生に示しています。1つはホンダの成長を、徹底して定量的に分析したケース。もう1つは経営陣に対するインタビューをベースにしたケースです。

 前者では、かつてのホンダが経営学の戦略セオリーに従って経営をしていたように見えます。ところが後者では、ホンダの役員たちは「私たちに戦略なんてありませんでした」とか「オヤジ(本田宗一郎)の思いでやり遂げた」と話すんです。一体、どちらが真実なんでしょうか。

 答えは「両方」です。米国では前者が優先して考えられる。でも実際の戦略は、経営者の直感、事業に対する思いから生まれます。

 梅澤 戦略学的に言うと、前者が「戦略的計画」、後者が「創発」の世界でしょう。それぞれ左脳、右脳と読み替えてもいいかもしれません。

 確かに、戦略の最初の種はたぶん右脳、つまり直感や洞察から生まれると思います。でも、それだけでは良い戦略とは言えないんですね。右脳によって作られた仮説を検証するという意味で、まともな左脳が必要なんです。この2つの能力があって初めて戦略が生まれる。要するに、右脳と左脳を両方とも使えて、しかもつなげられる会社が戦略的には一番強いんです。

 ただし、優れた右脳を作るのは分析的な左脳を作るよりはるかに難しい。優れた仮説をひねり出す方法論って世の中にありませんよね。だから、その能力は経営者が持つべき必要条件の1つだと思います。

 逆に、それを捨ててしまったトップが何をするか。経営企画部のスタッフが作り上げてきた、ホチキス留めされた事業計画の束に、ハンコを押すだけの人になっちゃうんです。ダメな経営者の典型ですね。

 竹内 日本は創発的、右脳的な部分に優れていると思いますよ。強みだと思います。

 水越 確かに日本企業のトップには、創発的な考え方ができる人も多い。でも徹底できないんです。これは二律背反の課題です。創発的、直感的な経営者ほど、組織全体にその考えを伝播させられない。四六時中一緒にいる会社の幹部ですら分かっていない場合もあります。ベンチャーは別にしても、大きな組織を変えるには、直観や洞察をきちんと形式化し、社内に徹底させなければ動いていかないんです。

存在意義を問い直して まねされない企業になるべき
――大薗 恵美[一橋大学国際企業戦略研究科教授]

大薗 恵美[一橋大学国際企業戦略研究科教授](写真:村田 和聡)

 大薗 過去の成功体験が大きい会社ほど、実は各事業部とか部門からの予算積み上げでモノが決まってきているのではないか、私はそんな仮説を持っています。要するにあまり経営管理的ではないんです。危機意識は持っているんだけど、いつまでたっても企業自身が進むべき道を決められない。

 経営者の方々と話すと、「こうあるべき」だとか、「こうしたい」という計画が出てくるんですが、いざ会社を動かすオペレーションの段階に来ると、だんだん計画が丸くなっていき、結局積み上げ型の予算にちょっと傾斜配分したようなものになっていく。

 水越 自動車業界の強みとして知られる「擦り合わせ」なんていうのは典型でしょうね。これまでは「強み」でしたが、今では皮肉にも「足かせ」になってしまった。自動車業界の中でも、タイヤメーカーや塗装メーカーなど、メーカーと距離を置いて独自の地位を築かざるを得なかった企業の方がパフォーマンスがいいのは、その裏返しなのかもしれないですね。

サラリーマン社長の限界

 山川 創発とセオリー。両者を兼ね備えてグローバル競争に勝つために必要なリーダーの条件について、もう少しお聞かせください。

 竹内 誤解を恐れずに言えば、リーダーはホラを吹いた方がいいと思うんですよ。日本電産の永守重信社長は、ソフトバンクの孫正義社長、ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長、そして楽天の三木谷浩史社長の3人を「日本の3大ホラ吹き経営者」と呼んでいます。

 梅澤 ホラを吹ける人は、世界を見る視野が広く、将来に対して長い時間軸でものを考えられるんだと思います。つまり大局観です。それがない人は、たぶんホラを吹こうとも思わない。

 実は1兆円企業のトップですら「世界で1番を取る」という大それた目標を掲げる人は少ない。そこまで強く思っていない日本企業は、たぶん10年たっても20年たっても1番になれないでしょう。経営トップが1番になるんだと口に出して社員を鼓舞し、皆で試行錯誤を始めるところから成長は始まるのだと思います。

 水越 ただ、企業はトップだけが懸命に動いても限界があるでしょう。

 梅澤 右脳が強い人、左脳が強い人、あるいはブランディングが強い人、かちっと会社を押さえるのが強い人。これを自分のチームとして束ねるにはビジョンが必要です。

 さらにグローバルで勝ち抜くには、多国籍のチームを意識的に作って、彼らにビジョンをきっちり伝える必要がある。日本人だけのチームなら以心伝心でいいかもしれませんが、ビジョンのないリーダーにグローバルなチームはまずついていきません。

 水越 多くの日本企業で課題なのは、コミュニケーションができていないことです。こう指摘すると、すぐ言語の問題にすり替わってしまうのだけど、そうではない。

 発想やものの考え方に問題があるんですよ。日本企業の経営陣は大きなコンセプトで議論するというのが非常に苦手です。大きな概念をブレークダウンさせる教育や訓練がなかったせいでしょう。経営者なのに個別具体的な小さな事例からでしか発想できない。

 竹内 アップルの故スティーブ・ジョブズ氏なんかはエッセンスを伝える能力が非常に長けていましたよね。米ゼネラル・エレクトリック(GE)のジェフリー・イメルト会長や米IBMのサミュエル・パルミサーノ会長もそう。日本の経営者にとってメッセージ伝達力は大きな課題かもしれない。

 梅澤 米国だとロジカルなコミュニケーションだけじゃなく、即興演説のように、いろいろな形で自分のメッセージを伝える教育があります。

移民政策が進まないなら 企業が実行すればいい
――水越 豊[ボストンコンサルティンググループ日本代表]

水越 豊[ボストンコンサルティンググループ日本代表](写真:村田 和聡)

 水越 やっぱり一番鍛えられるのは、日本人が外国人と同じ土俵で働いて切磋琢磨することでしょう。ただ、なかなか進まない。なぜかと言えば、任期の短いサラリーマン社長ではできることが限られているんですよね。自分が社内の抵抗を押し切って変えられるのは2つか、多くて4つ程度。お荷物事業を何とかするのに忙殺されて、人材育成やダイバーシティー(多様性)の推進なんかに手が回らない。それが現実でしょう。

 竹内 任期を難なく過ごそうなんていう人は、ホラも吹けず、大胆な意思決定もできません。ノーガッツ、ノーグローリーなんですから(笑)。

 これは日本企業の大きな課題ですね。一般的にトップの任期は2期4年と言われますが、恐ろしく短いと思います。欧米の成功企業に共通しているのは、トップの任期の長さ。GEの場合はジャック・ウェルチ元会長が20年、現トップのイメルト氏も就任から10年経ちますが、あと10年やると言っている。時間の感覚が日米で全然違うんですよ。

 大薗 会社の新しい夢を描くというのはサラリーマン社長にとってチャレンジングな部分かもしれない。ただ毎回2期4年でトップが代わる会社で「私は10年社長を務める価値がある」と言うのもなかなか難しいですよ。すごく勇気がいる。

 梅澤 とはいえ、サラリーマン社長では無理だよねと言ったらそれでおしまいです。社内のグローバル化だって思い切りやればいい。絶対に将来成功しますよと私は言いたい。

我々は世界に乗り出す移民

 山川 日本企業が今後、米グーグルやアップルのように新しい市場を作り出すにはどうすべきでしょうか。

 水越 日本はガラパゴス市場と揶揄されますが、だからこそ可能性があるんです。日本市場で育った事業を新興国でやれる余地があるんじゃないかなと思います。例えば、日本独自の会社形態である総合商社。彼らは日本の経済発展に大きな役割を果たしました。ならば、これから発展していく国に適用できるんじゃないかなと思います。

 梅澤 日本のソフトパワーに注目しています。ブランド力を武器にグローバルでビジネスをやるのに、日本は世界一の潜在力を持っていますよ。

 大薗 国内で成功した事業を海外展開するのは次の世代のチャレンジだと思います。そこで鍛えたマネジメントをどう移植するかが、大きな課題になるでしょう。

創造性を生かせば 本企業は最強になれる
――梅澤 高明[A.T.カーニー日本代表]

梅澤 高明[A.T.カーニー日本代表](写真:村田 和聡)

 梅澤 世界一洗練された、ユニークな消費市場を持つ日本だからこそ、レベルの高いもの、エッジの利いたものができる。だから、もっと創造性を生かしてほしい。そうすれば、“次のアップル”が日本企業の中から出てくる可能性も十分にあります。

 ただ、ガラパゴスであるがゆえに、世界展開したら何ができるのかという目をもった日本人が決定的に少ないというのもまた事実です。ですから、日本という国も日本企業ももっと抜本的に『開国』する必要があると思います。

 水越 本来ならば国が移民政策をやればいいと思いますが、彼らがやらないのなら企業がやればいい。日本企業の中には、自分たちが勝てそうなところだけを探すような傾向があるが、それではもう生き残れない。自分たちは挑戦者なんだという気概や覚悟を持つ。その先に、新しい産業が作り出されるんじゃないでしょうか。

 大薗 グローバルな市場で、ユニークでまねされにくい企業になるには、いま一度自分たちの存在意義を見つめ直すべきかもしれません。

 竹内 私が思うに、日本企業は未来はバラ色だと信じ込むことが必要なんだと思いますよ。今の経営者はあまりにも暗い。ピーター・ドラッカーも指摘しているように、将来は創造するものなんです。僕たちは今までの旧世界とはまるで違う世界、新世界に乗り出す“移民”なんですよ。

竹内 弘高(たけうち・ひろたか)氏
竹内 弘高 氏 米ハーバード大学経営大学院教授。国際基督教大学卒。一橋大学商学部教授を経て、1998年に一橋大学大学院国際企業戦略研究科長。2010年7月から現職。(写真:村田 和聡)
大薗 恵美(おおその・えみ)氏
大薗 恵美 氏 一橋大学国際企業戦略研究科教授。戦略的ポジショニングと組織能力の関係などについて研究。共著に『トヨタの知識創造経営』『イノベーションの実践理論』など。(写真:村田 和聡)
水越 豊(みずこし・ゆたか)氏
水越 豊 氏 ボストンコンサルティンググループ(BCG)日本代表。東京大学経済学部卒、米スタンフォード大学MBA(経営学修士)。1990年BCG入社、2005年から現職。(写真:村田 和聡)
梅澤 高明(うめざわ・たかあき)氏
梅澤 高明 氏 A.T.カーニー日本代表。東京大学法学部卒、米マサチューセッツ工科大学MBA(経営学修士)。1995年A.T.カーニーのニューヨーク・オフィスに入社。2007年から現職。(写真:村田 和聡)
日経ビジネス2011年10月17日号 46~49ページより

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