ライフスタイルを 創造する

 市場のセグメンテーションではなく、そもそもこれまでになかった、あるいは誰も気づかなかった潜在的な需要を掘り起こすことで市場を「創造」してしまう企業もある。4つ目は消費イノベーション型ベンチャーだ。

 「これを買いたい」という顧客の需要に応えるために、一般に、小売業はPOS(販売時点情報管理)システムなどで「需要の最大公約数」を捕捉しようと努める。しかし雑貨店大手・ヴィレッジヴァンガードコーポレーションの店舗に何かの商品を探しに来る顧客はほとんどいない。あるのは「ヴィレッジヴァンガードに行けば面白いものが何かある」という漠然とした期待感。それに応えるには、POSシステムと正反対の発想、つまり「顧客の想定したものを置かない」という品揃えが必要だ。同社は、そんな「顧客の期待を“裏切る”市場」を創造したと言える。

 商品選定から仕入れ、店舗内の配列など店長に幅広い裁量権を持たせて独自性の強い品揃えを維持する。

 かつては料理レシピとは、専門家が作成して一般人が読むものだった。しかし、「専門家ではないがオリジナルで考えたレシピを公開したい」「凝ったものでなく主婦向きの簡易なレシピを知りたい」など、“素人レシピ”を教え合うニーズがあることにクックパッドは着目。インターネットを利用したレシピ共有サービスを創始してヒットに繋げた。

 「薬は薬局で買うもの」という常識を覆し、食品などと一緒に「薬はスーパーやコンビニエンスストアで買うもの」という新しい消費習慣を定着させようと試みているのがクオールだ。

 もともとは東北・関東に地盤を置くシェア5位の調剤薬局店だったが、2009年に改正薬事法が施行され、大衆薬販売の規制緩和が始まったのを機に家電量販店やコンビニエンスストアなど異業種との提携を開始。ローソンと調剤薬局併設型コンビニ店舗を作った。

 無から新しいサービスを生み出すだけでなく、かつてあったものを蘇らせることで市場をつかんだ例もある。

あさひの店舗内。自転車のディスプレーをひな壇にするなどのこだわりが見られる

 出店攻勢をかける自転車専門チェーンのあさひ。同社の下田進社長は、起業前に個人で自転車屋を営んでいたが、ホームセンターなどの大型店が自転車を販売するようになると売り上げが激減したという苦い経験を持つ。しかし、ホームセンターは自転車を売るだけでサービスには注力していないことに気づいた。そこで、「規模の大きい店舗ながら個人商店のような対話型のサービスを実現できる店を増やせば、お客が増える」(下田社長)と考えた。典型例が「サンキュー点検」だ。その名の通り390円でブレーキなどの点検をする。

サービス接点を販売につなげる

 「自転車販売市場」と見れば、価格競争の消耗戦に死屍累々のレッドオーシャンに違いない。だが、かつて「町の自転車屋さん」が提供していた修理などのサービス市場は、プレーヤーがほとんど駆逐され競合なき空白市場になっていた。サービスを通じて得た顧客との接点を販売にもつなげていくことで、あさひは成長を続けている。

 「結婚式場は、交通に不便な場所が多い。送迎があったとしても不便だ」。そんな不満に応えた結婚式場運営のエスクリが生み出したのが、あまり前例のない「駅直結の結婚式場」だ。東京駅や大阪駅などのターミナル駅に直結した式場を開発。遠方からの出席者にとっても利便性が高く、好評を博している。


 有望な中堅・ベンチャー企業の取る4つの戦略を見てきた。すなわち、既存市場を細分化し、ニッチ(隙間)を寡占する戦略。マクロ指標などで有望市場と思われる「大きな市場」に、自社の立ち位置を確保する戦略。地理的に市場をセグメント化し、その市場を制圧する戦略。そして、どこにも存在しなかった市場を生み出す戦略。

 22ページで述べた本特集の主張をもう一度繰り返したい。いずれの戦略が正しい、誤っているというものではない。強くあるために大切なのは「選ぶこと」。限られた経営資源をどこに集中投下するかを決めることだ。企業の規模、市場の国内外にかかわらず、自らの進む道を決められない企業に未来はない。

 では、いかにして選べばよいのか。次ページから、4人の有識者に「道を選ぶ者」――経営者やリーダーがこれから10年間を生き抜くための条件を語ってもらった。

【選 定 概 要】

躍進の中堅・ベンチャー企業

2011年8月末時点の時価総額が1000億円以下の上場企業の中から、2008~11年度の売上高と経常利益が連続増収増益の企業を抽出した(2011年度は会社発表の予想値)。その約70社の中からT&Cフィナンシャルリサーチの本吉亮マネジャーの協力を得て、30社を選定した。

日経ビジネス2011年10月17日号 44~45ページより

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