果敢なM&Aで世界に挑む14社

 日本の企業が今後も持続的に収益を上げるためには事業基盤を厚くする、さらには基盤とする市場を拡大するといった戦略の再構築が迫られる。縮小を続ける国内市場だけでは成長の可能性は限られる。ビジネスチャンスをより広範囲に求めないと、収益は確実に減っていく。

 ではどうするか。その方法の1つがM&A(合併・買収)だろう。自らの経営戦略に合致した企業を買収し、事業拡大を進める。

 円高という追い風もあり、日本企業による海外企業のM&A件数は確実に増えている。M&A助言会社のレコフの調査によれば、2011年4~9月の海外買収総額は約3兆円と前年同期比2.2倍。買収件数も3割増の236件だった。

 「我々はM&Aで『時間』を買っている」。こう言い切るのは日本たばこ産業(JT)で長年、海外企業の買収案件に関わった嶋吉耕史たばこ事業本部長だ。JTはこれまで、1999年に米国のRJRインターナショナル、2007年に英国のガラハーと、世界の大手たばこメーカーを中心に買収してきた。戦略は明確だ。世界でのシェアとグローバル人材を育成する手間を「買う」ことだ。

 「地域制圧型」でも取り上げたキリンホールディングスもJTに似た考え方だ。ビール、飲料事業は地域や文化によって嗜好が異なる。ブランドを1から立ち上げ、販売網を確立するのは時間がかかる。そこでアジア・オセアニア地区を中心に主要飲料メーカーの買収を進め、シェア拡大を狙う。

住生活グループは、中国の外壁材企業、上海美特幕墻を買収した(写真は上海のINAXショールーム)

 自社の足りない事業を補うためにM&Aを活用する──。住生活グループのM&A戦略からは、「補完」というキーワードが浮かび上がる。これまで新日軽やサンウエーブ工業など、国内の住宅資材関連メーカーを買収し、国内の住生活産業を一貫して賄う事業体制を整えてきた。新しいグループブランド「LIXIL(リクシル)」を立ち上げたのもそのためだ。今後はこの買収攻勢を海外に広げようとしている。

 住生活グループが今年8月に買収したイタリアの建材大手、パルマスティーリザは欧州各国や中国、インドなど27カ国に営業拠点を持つ。「カーテンウオール」と呼ぶ、ビル壁材を主力事業とするグローバル企業だ。買収によって新興国を中心に需要が伸びるであろう外壁材市場を押さえることができればシェアを獲得できるうえ、LIXILブランドの製品納入にもつながる可能性がある。

 住生活グループの筒井高志副社長は「今後もトータルハウジングに貢献してもらえる会社ならば積極的に買収していきたい」と意欲を見せる。

不況が買収のチャンスに

 危機を逆手に、M&Aで「新たな秩序作り」へと挑戦するのは段ボール大手メーカーのレンゴーだ。同社の事業戦略は、国内段ボール製造・供給事業や包装事業など6つの中核事業から成り立つが、そのうちの1つである「海外事業」は中国や東南アジアからの売り上げを中心に会社の全売上高の約1割を占める。将来的には2割まで引き上げる方針だ。その視線の先には消費大国、米国がある。

 米国では現在、長引く不況で段ボール業界全体が縮小。業界再編が起こっている。「業界が混乱している時ほど業界参入のチャンスがある」(大坪清社長)と考え、2011年6月、ハワイに拠点を構えた。パイナップルを運ぶ段ボールなどを製造しながら、米国西海岸に新たな投資先を虎視眈々と狙う。

 しかし一方で大坪社長は、「海外の会社は安易に子会社化しない。M&Aという言葉は好きではない」とも話す。 時間をかけて丁寧に。レンゴーは、企業文化を買収先に浸透させてから出資比率を上げていくという。資金にものを言わせて最初から買収してしまうM&Aは、買う方、買われる方、双方にとって円滑な事業展開につながらない可能性もある。長期的な視点からの関係構築が必要不可欠だと大坪社長は考えている。

 企業がM&Aに踏み切る事情はそれぞれ異なる。しかし大切なのは、自らの将来を描いたはっきりとした設計図だ。そのあるなしは、10年後も企業が永続できるかどうかに、ボディーブローのようにじわじわと効いてくるのかもしれない。

グローバル競争に勝つ70社選定の概要

(1)2011年9月1日時点で全国の証券取引所に上場している企業3477社(外国会社、金融、REIT=不動産投資信託、ETF=上場投資信託、種類株上場の企業等を除く)を対象とし、日本経済新聞デジタルメディア社の総合経済データバンク「NEEDS」を用いて抽出作業を行った。業種の区分は日経業種区分に準拠。データの加工及び集計作業は日経リサーチが担当した。500社の抽出に当たっては、以下の項目で評価を行っている。

A:時価総額の推移
2007年3月末~2011年8月末までの時価総額の増減及び変動の大きさ。

B:売上高の成長トレンド
2006~10年度(2006年4月期~2011年3月期)の売上高の増減及び変動の大きさ。

C:利益率の水準
前期を含む3期の売上高営業利益率の水準及び、2006~10年度(2006年4月期~2011年3月期)の売上高営業利益率の変動の大きさ。

D:企業規模
2010年度(2010年4月期~2011年3月期)の売上高

上場時期の関係などで全期間のデータを入手できない企業については、入手可能な範囲で計算した。A~Dの観点から相対評価で得点化し、上位500社に入る企業を抽出した。


(2)上記の方法で抽出した500社のリストを、証券アナリストに送付し、23ページに掲げたA-1からB-3の9分類について、それぞれ「最もふさわしい」(A)、「次にふさわしい」(B)、「3番目にふさわしい」(C)企業を挙げてもらった。Aを3点、Bを2点、Cを1点としてスコアを集計し、上位企業を抽出した。アンケートに回答したアナリストは以下の通り(敬称略)。

【SMBC日興証券】岡芹弘幸、村上貴史【極東証券経済研究所】田村真一【クレディ・スイス証券】黒田真路、前川英之【ゴールドマン・サックス証券】播俊也、横尾尚昭【JPモルガン証券】村田大郎、森山久史【シティグループ証券】江沢厚太、山口秀丸、吉田有史【大和証券キャピタル・マーケッツ】阿部聖史、石原太郎、佐渡拓実、田井宏介、山崎徳司【ドイツ証券】風早隆弘、菊池悟、永野雅幸、中根康夫、諸田利春、渡部貴人【バークレイズ・キャピタル証券】中名生正弘、藤森裕司、米島慶一【みずほ証券】田中洋【三菱UFJモルガン・スタンレー証券】内野晃彦、小澤公樹、黒坂慶樹、小場啓司、荻野零児、水谷敏也【メリルリンチ日本証券】桑原明貴子【モルガンスタンレーMUFG証券】垣内真司、五老晴信【UBS証券】伊藤敏憲、武田純人、星野英彦、松本邦裕、守屋のぞみ、吉田達生


(3)さらに、A.T.カーニーの梅澤高明代表、ボストンコンサルティンググループの水越豊代表、日経BP社・ビジョナリー経営研究所所長の多田和市の意見を加味して70社を確定。A1~B3の枠組みは梅澤氏から助言を得た。

日経ビジネス2011年10月17日号 38~39ページより

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