一朝一夕には攻略できない世界市場の中では、確実に勝つ市場(地域)を選ぶ選球眼が必要だ。ターゲット地域を絞り込み、その地域を制圧していく。この行程は、ゴールとされる「世界覇権」につながる道だ。

 一見すると、前述の「大衆攻略型」に近い戦略と感じるかもしれない。だが、大衆攻略型が「低価格帯」を中心に攻めるのに対して、地域制圧型は価格帯にかかわらず、「地域」に重きを置いて拡大していく戦略だ。

地域を制する3つの手法

 地域を制圧するのには3つの方法がありそうだ。その3つとは、「拠点膨張」「地域延伸」「買収浸透」だ。

 まずは拠点膨張。1つの海外拠点を中心に攻め、成功した場合に、文化や習慣の似た周辺国を攻めて制圧地域を拡大していく手法だ。この手法で地域制圧に成功している企業として、味の素とフマキラーが挙げられる。

 味の素の伊藤雅俊社長は、「地域ごとの中核拠点をハブにして周辺国に展開していく」と説明する。現在、同社が高いシェアを誇る東南アジアで、ハブの役割を果たすのが1960年に現地法人を設立したタイだ。この現地法人をハブとして2001年にカンボジアのプノンペンにも支店を設立。市場の拡大に伴い2009年9月に現地法人化し、翌年には新工場を設立するまでに急成長した。

 カンボジア市場を攻略するうえで重要な役割を担ったのは、既に拠点として確立されていたタイの現地スタッフだ。現地の文化や習慣について、日本人よりも理解度は高い。

 味の素は同様のやり方でミャンマーやインドなどに進出。イスラム教徒向けの食品に求められる戒律「ハラル」に準拠した生産設備を持つインドネシアからも商品や人材を投入することで、中近東などのイスラム圏を攻略する計画だ。

 味の素の2011年3月期の海外食品事業の営業利益は302億円と、国内の297億円を上回る。上昇気流に乗り今年はトルコやエジプト、バングラデシュに販売会社を設立した。

 殺虫剤大手フマキラーのグローバル戦略も典型的な拠点膨張だ。

 ライバルとの熾烈な価格競争にさらされる国内市場を戦いつつ、同社はいち早く海外展開を進めてきた。現在、進出している国は60カ国にも上る。大半の国は、現地資本の代理店に販売を委託する「輸出」のみ。代理店とは資本関係はない。ただし例外もある。インドネシア、インド、メキシコだ。

 同社が最重要拠点と位置づけるのがインドネシア。ジャカルタ郊外にある工場で、低コストの「蚊取り線香」を製造する。蚊取り線香の販売価格は、現地では1巻数円。「しらみつぶし作戦」とも言うべき農村部での地道な営業戦略で勢力をじわじわ広げている。インドネシアで製造されたコスト競争力の高い蚊取り線香を、フマキラーは世界で販売しようとしている。

 2007年には中南米市場をにらんでメキシコに合弁会社フマキラーアメリカを設立。2010年4月には、74%出資していたインドのフマキラーインディアを完全子会社化することを決めた。インドネシアから東南アジア諸国へ。メキシコから南米へ。そしてインド。それぞれ有望市場に自社資本で「橋頭堡」を設置し、その周辺地域を制圧していく戦略だ。

 2つ目の地域延伸は、新興国の都市部を攻めて、経済発展とともに地方へ拡大する手法だ。中国の沿岸部で一定のブランドを浸透させ、その後内陸部を開拓する資生堂の戦略は、まさにこの典型だ。

 同社はこの手法をロシアでも踏襲している。資生堂は2010年、ロシアの取扱店舗数を1年で3倍の900にまで引き上げた。モスクワやサンクトペテルブルクといった都市部の店舗数は250。残る650店は人口100万人以下の中小規模都市への進出だという。

 資生堂がロシアに進出したのは1999年。モスクワなどへ一気に資本を投じた。その後、大都市でのブランドが浸透したと見るや、その域を中小規模の都市にまで広げた。中小都市部の売り上げは約3割だが、中小都市でも所得が増えつつある。資生堂はこうした都市の中間・富裕層を狙う。

 ただ、これまで挙げた2つの手法はどうしても制圧に時間がかかってしまう。地道に信頼関係を構築する必要があるからだ。一気呵成の制圧を考えるならば、M&A(合併・買収)の活用も有効だ。

 現地で知名度が高く、販路を押さえる企業を傘下に収めることで、その地域を一気に攻略できる。この手法を積極的に取り入れているのが、キリンホールディングスだろう。

 同社は「アジア・オセアニア市場」を押さえるべく、2007年から豪州ナショナルフーズやライオンネイサン、フィリピンのサンミゲルなど数多くの飲料・食品企業を傘下に収めてきた。飲料事業者だけでなく、食品会社も買収し、総合食料会社としての地位確立を目指す。国内ライバルも海外へのM&Aを次々に発表し、まさに「陣取り合戦」の様相を呈している。

 じっくりと時間をかけて信頼を構築して拡大する手法と、資金を張って時間をかけずに地域を制する手法。自社の置かれた現状を再確認すれば、地域制圧の道筋はおのずと見えてくる。

【ヒグマ】
巨体と高い運動能力が特徴。近年、開発によって生息する領域が人里に接近したため、人間との接近事故が頻発している。縄張りに君臨し、他を寄せつけない圧倒的な強さでそのエリアの生態圏(企業社会)の頂点に立つ戦略ポジション(イラスト:今竹 智)
日経ビジネス2011年10月17日号 28~29ページより

この記事はシリーズ「特集 未来を拓くニッポンの100社」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。