ブランド力――。

 その見えない価値は、企業にとっては最大の武器になる。ブランドの持つ付加価値が、企業の収益を最大限に押し上げるからだ。ブランド力をどう高めるかは、コスト競争力で韓国、中国勢にかなわなくなった日本企業にとって、共通の課題だろう。

品質頼みからブランド構築へ

 ニコンの木村眞琴社長はかつて米国で「スリーピングライオン」と揶揄された経験を持つ。「1990年代後半のこと。当社が自身のブランド価値を理解せず、十分に生かしていないことを指摘された」。

 ニコン製品の品質には定評があり、長年、プロのカメラマンをはじめとする利用者から大きな信頼が寄せられてきた。ただし、「かつてのニコンのブランドは、品質によって自然発生的に培われてきたものだった」(木村社長)。技術志向が強く、ブランドを積極的に構築し活用する体制ではなかった。

 戦略を転換したのは2000年頃。当時、映像事業のトップだった木村社長は、ブランドの積極的な構築に乗り出した。高品質と親しみやすさを兼ねたイメージに統一。その考え方を本にまとめて各国語に翻訳し、世界中のニコン社員に徹底した。

 当時のカメラ業界はアナログからデジタルへの転換期にあった。それまで高品質な一眼レフカメラに定評がありプロ向けが主力だったニコンは、手軽に使えるコンパクトデジタルカメラを武器に顧客層を一般の消費者へも拡大した。「信頼感はあれど、敷居が高い」存在から「信頼感プラス親しみやすさ」に。ブランド再構築は、時代の要請に迫られてのことでもあった。

10月に世界発売するミラーレス一眼カメラ「Nikon1」

 ニコンは今、もう一段ブランド力を高みに押し上げることを狙う。武器とするのは今回も新製品だ。今年10月、「ミラーレス一眼カメラ」と呼ばれる、従来の一眼レフカメラより小型軽量ながら、コンパクトデジカメより高品質な映像が撮影できる「Nikon1」を発売するのだ。

 木村社長は「ミラーレスの構造を生かし、高速移動する被写体など、これまで“撮れなかったもの”を撮れるカメラに仕上げた。新ジャンルの製品として売り込んでいく」と、新たなブランド価値創造に意気込む。

 先端的で高品質な製品による信頼感。それが認知度を高める適切な戦略と組み合わさった時に、ブランド力は確立される。

 ここにもう1人、米国でブランドに関して苦い思いをした経営トップがいる。偶然にもその表現までほぼ同じだ。

アシックスは9月にブラジル・サンパウロで高級感を打ち出した新店舗をオープン

 「スリーピングタイガー」

 アシックスの尾山基社長は米国で販売を担当していた時、同業他社にこう揶揄された。アシックスのブランドの1つである「オニツカタイガー」をもじったものだ。技術や性能は優れているが、米国での知名度はライバルのナイキやアディダスに比べて高くない。「どうかそのまま眠っていてくれ」という辛辣なジョークは、今も忘れられない。

 ところが今やアシックスは、インターブランド日本法人が選定する「日本のグローバル・ブランドTOP30」で、トヨタやホンダ、キヤノン、ソニーなど日本を代表する大企業に伍してランクインするまでになった。背景には、尾山社長が悔しさをバネに力を注いだ、ブランド構築戦略がある。

 尾山社長の考え方は新興国など経済成長が著しい地域を中心に、高級品と普及品の2つを出すことで、「アシックス=中~上級ブランド」との位置づけを獲得し、富裕層と一般層の両方に売り込むというもの。

 無論、一筋縄では機能しない。高級品のイメージを出しすぎれば一般大衆の手に届きにくい印象を与えてしまう。逆に「安い」イメージがついてしまうと、それを後から高級路線に切り替えるのは至難の業だ。

 だが、アシックスはそれを実現した。例えば中国市場。まず富裕層向けに高級ブランドとして売り出し、ブランドが浸透した後に手頃な価格の製品を打ち出す。中国で販売する運動靴は、ライバルである「Kappa」に比べて2倍近い価格帯の高級品が人気だ。今後は中価格帯の製品展開を検討しているが、低価格帯にまでは進出しない覚悟だ。

アフターサービスで評価高める

 製品品質だけでなく、しっかりしたアフターサービス体制を構築したことで、中国でブランドを確立した企業もある。衛生陶器のTOTOだ。

 欧米の企業が複数参入し、現地のライバル企業も増える中、富裕層市場におけるTOTOの販売数量シェアは約38%と、トップを走る。

 当時、中国ではアフターサービスの概念が深く浸透していなかった。TOTOはそれぞれの中核都市の営業所がアフターサービスを担い、上海など需要が多い拠点では専門業者に依頼するなどして他社と差異化。顧客の不満を解消し、逆にファンに変えた。

 現地にはない商習慣を先んじて取り入れた結果、高級ブランドとしての地位を確立したと言える。


【ジャイアントパンダ】
中国大陸で進化し、現在は中国四川省など一部地域にわずかに1600頭ほど残存する大型哺乳類。希少性に加え、白と黒にくっきり分かれた体毛、竹を好んで食べると言われる奇異な生態から、人間に珍重される。高いブランド価値で大きな付加価値を得るプレミアム戦略を取るポジション(イラスト:今竹 智)
日経ビジネス2011年10月17日号 26~27ページより

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