「行くぞー!ではなく、イグゾーです」。シャープの片山幹雄社長が上機嫌で紹介するのが、今年10月から順次増産する液晶パネル「IGZO(イグゾー)液晶」だ。

 液晶画面の色合いや明るさを調整する薄膜トランジスタに、世界で初めて酸化物半導体を採用し、省電力化と高画質化を実現した。世界的に大ヒットする米アップルのタブレット端末「iPad」への搭載が決まっているというから、片山氏が上機嫌なのもうなずける。

 過去10年で日本のエレクトロニクス産業はすっかり輝きを失ってしまったかに見える。パナソニックやソニー、シャープは、液晶テレビからスマートフォンまで、韓国勢やアップルの後塵を拝してしまった。

 ところが、販売好調な外国製品の多くは、日本製の電子部品を組み込んでいる。完成品での競争力は衰えても、日本の「部品力」は依然健在と言っていい。IGZO液晶はその一例だ。

 今年8月までCEO(最高経営責任者)としてアップルを率いていたスティーブ・ジョブズ会長をうならせた日本の電子部品はほかにもある。東芝のNAND型フラッシュメモリーはアップルのノートパソコンなどに搭載されている。

 ライバルの韓国サムスン電子を出し抜こうと、データを一時的に保存する「MRAM(磁気記録式メモリー)」など、次世代メモリーの開発にも力を入れる。2014年にはMRAMの量産を開始する計画だ。電源を切ってもデータが消えないので、電気を流し続けなければならないDRAMより消費電力が少ない。

 東芝は2013年に立体型のNAND型フラッシュメモリーの量産も開始する。通常は平べったい構造をしているが、立体構造にすることで集積度を高める。

 このほかにもエルピーダメモリが立体構造のDRAMを開発する。立体化することで、省電力化と小型化が進むという。

 太陽光発電システムなどエコ関連製品に不可欠な電力制御用のパワー半導体も、今後期待できる電子部品だ。調査会社の富士経済は2020年にパワー半導体関連の市場規模が現在の約2倍の4兆4837億円に達すると予測する。

パソコンなどから取り外され、電源が遮断されると内部に蓄積したデータを瞬時に解読不能にする。廃棄したパソコンから情報が盗まれるのを防ぐ。
世界で初めて酸化物半導体を薄膜トランジスタに使った液晶パネル。「iPad」の新モデルに搭載予定。高精細化と省電力化が図れる。
磁気記録方式の「MRAM」や抵抗値の変化で記録する「ReRAM」、立体構造の「DRAM」「NAND型フラッシュ」など。省電力化、小型化、高速化が進む。
東京・台場の日本科学未来館の球体有機ELディスプレー「ジオ・コスモス」

エコで需要増大のパワー半導体

 市場拡大を見越して三菱電機や東芝、富士電機、古河電気工業、ローム、住友電気工業などが電力ロスの少ない次世代パワー半導体の開発にしのぎを削る。現在主流のSi(ケイ素)の代わりに、SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)を素材に使用するものだ。

 SiCはGaNより高電圧機器に適しているとされ、電車のインバーター装置などでの利用が見込まれる。一方、GaNもいずれ高電圧に対応できるようになる見通しで、次世代パワー半導体の本命とも目されている。

 日本のエレクトロニクス産業は今後、競争力を維持しているこれら部品分野で一層のシェア拡大を狙うと同時に、完成品でも巻き返しを狙う。

 その復活の萌芽は、例えば、韓国勢に大きく後れを取ったはずのディスプレーの分野でも見え始めている。

 三菱電機は有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)パネルを使った球体の大型ディスプレーを開発した。小型の有機ELパネルを1万枚強、アルミ製の球体に敷き詰めて、直径約6mの球体に仕上げた。

 「ジオ・コスモス」と名づけて、このほど日本科学未来館へ納入。LEDを使った従来の球体ディスプレーに比べて解像度は10倍といい、地球の雲の動きなどを鮮明に映し出している。今はまだ商業施設の展示用だが、小型化すれば、家庭向けの地球儀やインテリアなどへの応用も考えられる。

 ブリヂストンは基板にガラスではなく、プラスチックフィルムを使うことで、ノートのように曲面の形に曲げることが可能な電子ペーパーを開発した。紙からの置き換えが本格的に始まれば、大きな需要が見込める。

 「平面」で敗れた日本のディスプレーだが、「球面」や「曲面」では同じ轍は踏むまいと開発を急ぐ。苦境に立たされている日本のエレクトロニクス産業だが、反撃のチャンスがないわけではない。

日経ビジネス2011年10月10日号 25~27ページより

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