日本経済の再興には、日本製品の競争力回復が欠かせない。ここで紹介するのは、日本を支える主要6分野の「稼げる技術」だ。有効活用すれば、次の10年、日本製品は再び世界を驚かす。

 上り坂に差しかかりアクセルを踏み込むと滑るように加速する。だが、エンジンの始動を示す振動は感じられない。走行状況を表示する計器は、モーター走行を示したまま。愛知県豊田市を走行した18kmのうち、エンジンがかかったのは、窓ガラスの曇り止めを作動させた時だけだった。

 トヨタ自動車が来年1月に発売する「プリウス プラグインハイブリッド」。その特徴は、名前が示す通りプラグを用いてコンセントから直接バッテリー充電ができること、だけではない。最大のポイントは、満タン充電の場合、走行距離20km程度までEV(電気自動車)として走ること。これにより、通常のHV(ハイブリッド車)とは比べものにならない破格の燃費性能を誇る。

距離の壁が無い「電気自動車」

 記者が試乗したのは限定生産した、いわばプロトタイプの1台。トヨタは同様の車を25人の一般ユーザーに貸し出し、データを収集している。それによると半数以上の人の燃費が1リットル当たり50kmを超え、1回の給油で3500kmを走ったユーザーもいた。

 一方、20km以上の長距離移動になると通常のHVとして走行するため、純然たるEVのように、バッテリーの残量を気にしながらドライブすることもない。「HVとEVの良いところを併せ持った、次世代エコカーの本命」と開発を担当する田中義和・製品企画本部主査は説明する。

エンジン停止や軽量化など既存技術に磨きをかけてハイブリッド車と比べても遜色ない燃費性能をガソリン車で実現。「イーステクノロジー」と名づけた。
乗用車に比べて高いパワーが必要とされるトラック用にモーターやバッテリーの高出力化を実現した。厳しい排ガス規制に対応しやすくなり、経済性にも優れる。
水素と酸素を反応させて発電しモーターを駆動させる次世代技術。排出ガスが発生せず燃費性能も高い。2015年頃の市販目標。低価格化が課題。
鉱山で使う大型ダンプトラックを無人走行させる。複数のセンサーを組み合わせ走行、停止、障害物回避などを自動制御。安全性が向上、少人数で鉱山運営。
「市販モデルは環境だけでなく、走行性能にもこだわった製品にする」とトヨタ自動車の田中義和主査は話す(写真:高木 茂樹)
危険を察知すると自動でハンドルとブレーキを操作し衝突を回避する
「開発は想像以上に大変な作業だった」と話す中野晴久氏

 来年発売する市販車はプロトタイプからさらに進化する見通し。電池を軽量化するなど車体重量を100kg減らし、室内空間も広げる。ハイブリッドシステムの制御方法も変更し、災害時などに電力を取り出せる給電口も装備する計画だ。価格はエコカー補助金などを除いて300万円程度と、現行プリウスの上位車種より安く設定する考え。国内外で年間5万台の販売を計画している。

 次世代自動車テクノロジーは、今後10年の「日本の稼げる技術」を語るうえで欠かせない存在だ。とりわけエコカーに代表される環境関連は世界最高水準にあり、今後もリードし続ける可能性が高い。HVやEV、燃料電池車など先端技術の開発に各社ともしのぎを削り、ホンダなど大手3社は2015年頃に燃料電池車の市販を目指している。

 完成車メーカーを支える自動車部品メーカーも世界を制する技術を持つ。CVT(無段変速機)にもう1つ、AT(自動変速機)を組み込んだらどうか。1人の若手社員の突飛なアイデアを実現したのは、自動車部品のジヤトコだ。

 性能世界一、そしてサイズも価格も変えるな、という無理な注文に応えるため、迷う間もなく開発に取り組んだ。社内の延べ200人が参加する開発合宿を敢行。部門を超えた協力で、2年半で製品化にこぎ着けた。

 ジヤトコが作り出した「CVT7」は、自動車用変速機の性能を示す変速比幅が7.3。変速比幅が7を超える製品は世界を見てもほとんどなく、小型車向けでは「ダントツで世界一」(中野晴久プロダクトチーフエンジニア)の数値だ。

 高い変速能力の強みは、燃費効率の良いエンジン回転数を保ったままスピードを様々に変更できることにある。排気量1.2リットルのAT車に、CVT7を搭載したところ、燃費性能は15%向上した。中野氏は「低燃費の小型車を作る切り札になる」と自信を見せ、アジアで増産対応に追われている。

地球から交通事故が消える日

 環境と並び、日本が世界トップレベルにある次世代自動車技術が安全関連だ。人間の判断力と動作を自動車が補うことで、事故を回避する。

 トヨタはレーダーとカメラを使ったデータ分析で、障害物やガードレール、路上の白線などを自動車が認識する研究を進めている。走路を外れてガードレールに異常接近した時や、ほかの車と衝突する危険を認識すると、運転者に警報を出したうえでハンドルとブレーキを自動で動かし、走行方向を変えて事故を回避する。

 日産自動車は魚の群れの動き方を自動車に応用するユニークな研究を進めている。互いに存在を認識して一定の距離を保ちつつ移動する魚の群れ。この動きを応用したロボットカー「EPORO」は、通信によって互いの状態を知り、衝突を避けながら緩やかに集団を作って走行する。実際の自動車に応用すれば、「ぶつからない車」の実現に近づくことになる。

 日本の技術によって「地球から交通事故が消える日」が来るかもしれない。

日経ビジネス2011年10月10日号 24~25ページより

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