快進撃を続ける米アップルに強力なライバルが登場した。米アマゾンが199ドル端末を引っ提げタブレット市場に参入。その強さは、豊富なコンテンツとクラウドとの親和性にもある。

 タブレット端末の世界市場でシェア7割と、圧倒的な強さを誇る米アップルの「iPad」。その快進撃を阻む可能性を秘める対抗馬が登場した。米アマゾン・ドット・コムが9月28日に発表した「Kindle Fire(キンドルファイア)」である。米グーグルの「アンドロイドOS(基本ソフト)」を搭載する7インチ型のタブレット端末で、11月15日に米国で販売を開始する。

「iPadの半額以下」の衝撃

 アマゾンの新端末がiPadの有力な対抗馬と目される理由は大きく3つ。1つ目は価格だ。アナリストの事前予想では、新端末の価格は最低でも250ドル(約1万9000円)とされていた。しかし実際の価格は199ドル(約1万5000円)と、iPad2(499ドル=約3万8000円)の半額以下に抑えた。同じくアンドロイドOSを搭載する韓国サムスン電子の端末「ギャラクシータブ」などと比較しても圧倒的な安さだ。

 注目されているのは安さだけではない。2つ目は、アマゾンがアップルと同じくハードウエアとコンテンツを垂直統合できる企業であること。アップルの後追いで様々なメーカーがタブレット端末を投入してきたが、iPadの進撃を阻止するには至らなかった。

 その背景には、既存のライバルがアップルに対抗し得るコンテンツを持っていないことがある。iPadが圧倒的に強いのは、50万以上のアプリケーションをダウンロードできる「App Store(アップストア)」や1000万超の音楽・映像コンテンツを楽しめる「iTunes(アイチューンズ)」を利用できるからだ。

199ドルの新型タブレット端末を発表する米アマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾスCEO(最高経営責任者/写真:AFP=時事)

電子書籍ではアップルより先行

 一方、アマゾンは従来型のキンドル端末やパソコン向けに様々なコンテンツを提供してきた実績を持つ。100万冊近い書籍をダウンロードできる「Kindle Store(キンドルストア)」や10万以上の映像コンテンツを擁する「Amazon Instant Video(アマゾンインスタントビデオ)」、1500万以上の楽曲が楽しめる「MP3ダウンロード」などだ。特にキンドルストアは100万部以上を売り上げる書籍も登場するなど、電子書籍の分野ではアップルよりも先行している部分もある。

 そして3つ目が「クラウドコンピューティング」との親和性だ。新端末はアマゾンの子会社が提供するクラウドサービスと連動する専用ブラウザを搭載。端末本体とクラウドで分散処理を行い、ウェブサイトの表示を高速化する機能を備える。アマゾンはクラウドの分野でグーグルと並ぶ有力企業であり、その技術力は折り紙つき。アプリのウェブ化が進む中、この専用ブラウザーは強力な武器となりそうだ。

 タブレット端末市場は、2015年には世界での年間出荷台数が2億台を突破するとも言われる。一方で、多くのメーカーが入り乱れる「激戦区」と化しており、米ヒューレット・パッカード(HP)のように早々と撤退する企業も出ている。その中で、199ドルという価格と豊富なコンテンツを引っ提げて登場したキンドルファイアのインパクトは計り知れない。日本発売は未定だが、タブレット端末を展開する東芝やソニーなど日本勢も戦略転換を余儀なくされる可能性がある。

(中島 募)
日経ビジネス2011年10月10日号 87ページより目次

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