──『おもてなし経営』では、静岡県にある都田建設の経営を通じて、企業や経営者、従業員のあるべき姿について書かれています。執筆の背景として、今の日本企業に対してどんな思いを抱いていますか。

略歴:1971年生まれ。和歌山県出身。大手住宅メーカーを経て、98年に都田建設入社。2007年から現職。

 目線が非常に短期的ですね。同じお客様に継続的に価値を提供し、対価を頂くという長期的な視点を持つ企業が少ないと感じます。成熟社会で少子化も進む中、ただでさえ生き残るのは難しいにもかかわらず、です。

 ──「おもてなし経営」は美しい経営方針である一方、顧客との距離感が難しいようにも思えます。

 都田建設では、お客様に対して「やらないこと」を明確にしています。これがない限り、ホスピタリティーやおもてなしの経営はできません。

 例えば、都田建設では契約前に見積もりやプランをお出しすることはしません。他社さんと相見積もりを出し合って競っている限りは、受注に至らないお客様に対してエネルギーの大半を使わざるを得なくなるからです。

 私たちはまず都田建設の経営理念をお伝えし、共感し合える方とだけおつき合いをします。受注後は、全身全霊をかけて仕事をする。契約前からやらないことを明確化することで、お客様と対等な関係を作ることができます。

(写真:古立 康三)

『おもてなし経営』
蓬台 浩明(ほうだい・ひろあき)
東洋経済新報社
1575円
ISBN978-4-492-55690-0


 ──当初は3人だった社員数も、今では42人に増えました。社員同士で共感し合うために、工夫していることはありますか。

 社員同士で分かち合うことを大切にしています。毎日、全員が集まり、誰かが達成したことに対して喜び合う場を設けているのも1つです。また、社員が成果を上げた際には、チーム全員に報酬が支払われる仕組みを取り入れています。仲間があってこそ大きな仕事を成し遂げられると理解し、感謝の念を持てるようにとの思いからです。困った時に助け合える関係を作るようにと、社員には常々伝えています。

 ──社員が会社や仲間に誇りを持ち、仕事を天職と捉えることのできる環境を整える。それは経営者による、社員へのおもてなしの心だと感じました。

 職場は大人が自らを磨き、人格を形成するための学びの場だと私は思います。私は毎週1回、半日かけて社員全員に話をし、原点に立ち返る機会を設けています。企業理念や上司にぶれがなく、その人と話せば方向性が明確になる。そんな環境があれば、社員は安心して全力で仕事に打ち込めます。

 誰もが皆、日々の仕事の中でブレたり、迷いが生じたりするものです。そこを軌道修正してあげることが、社員に対する私からの「おもてなし」だと考えています。

(聞き手は 瀬戸 久美子)
日経ビジネス2011年10月17日号 70ページより目次