写真:スタジオキャスパー
『日本経済 今度こそオオカミはやってくる』
竹中 平蔵(たけなか・へいぞう)、
冨山 和彦(とやま・かずひこ)
PHP研究所
1470円 ISBN978-4-569-79939-1

 東日本大震災という未曾有の大災害と、それに伴う原子力発電所の事故というエネルギー政策の根幹を揺るがす大問題が発生して早8カ月が過ぎた。震災の直接被害だけでも、阪神・淡路大震災の9.6兆円の2倍近い規模になる。原発事故による被害まで加えたら、その数倍にも及ぶだろう経済的ダメージから日本は復旧し、そして復興しなくてはならない。

 バブル崩壊後の厳しい経済環境の中で起きた阪神大震災。その後に日本が見せた強靭な回復力を思い返す時、今回の復興も本来、もっと力強いものがあってしかるべきだ。しかし日本の株式市場を見ると、震災から3カ月も経たないうちに国内の出来事にはほぼ無反応な状態に陥った。この半年近く、米国市場を横目に相場は上下を繰り返し、取引時間中の変動は極めて少ないという異常な状況が続いている。

 もちろんこの間、ギリシャに端を発した欧州債務危機が世界の資本市場を揺るがし、米国債が史上初の格下げを経験するなど「海の向こう」で未曾有の出来事が起こっているのは事実だ。

 そのため、行き場を失った投資マネーが経済的な“傷”が比較的浅い日本をリスク回避先に選び、円は対ドルで75円台という史上最高値を更新した。

 しかし「だから日本はまだ大丈夫」とのんきな楽観論を展開する人は、最前線のビジネスパーソンには少ないだろう。それは、「狼(危機)がやってくる」と言われて久しい日本経済の現状を見て、「まだ狼は来ていない」と鈍感さをさらけ出すに等しいからだ。論

客が語る生々しい現実感

 本書の著者の1人、竹中平蔵氏は言わずと知れた小泉純一郎内閣の経済財政担当大臣として、公共事業を大幅に減らしながら経済成長を実現させた実力者だ。そしてもう1人の冨山和彦氏は、やはり小泉内閣による不良債権処理が山場を迎えた時期に設立された産
業再生機構のCOO(最高執行責任者)として手腕を発揮した人物。現在は被災地にある3つのバス会社に出資して、経営に携わる現実論者でもある。

 この2人の論客が日本の政治・経済における厳しい現実を、まさになぜ日本の株式市場さえもが国内材料を無視する状態に陥ってしまったのかを、冷静かつ鋭く検証している。生々しい現実感がそこにはある。

 欧州債務危機も、格下げを甘受せざるを得ないまでに傷んだ米国の財政状況も、あるいは国論を二分するとまで言われるTPP(環太平洋経済連携協定)参加議論も、根底にある問題は実は同じなのかもしれない。それはリーダーシップの問題だ。

 冨山氏は本書で、「全員参加型の意思決定は一見すると民主的で、ボトムアップで美しい。そのため、重大な問題ほどそういう方法で決めるべきだという人がいますが、現実の組織経営論的にはむしろその逆で、重大な問題こそ1人のリーダーか、ごく限られたメンバーだけで決めるべき」と、戦略的な意思決定のあり方を指摘する。

 企業を方向転換させる時も、国家が窮地を乗り切る時も、一部に痛みを伴うかもしれない重大な決断を下せるのは強きリーダーだけだという。企業再生の陣頭指揮を執った経験に裏打ちされた正鵠を射た指摘であり、政治や経営にぜひ取り入れてほしいと思う。

 冨山氏と私は年齢が1つ差。本書には「団塊の世代とちょうど1回り違う」とある。団塊世代とは異なる目線で、若い人のために日本のあり方を考える視点には、私も強く共感を覚える。

 挑戦しがいのある時代、若い世代が台頭する時代を期待する本書の第5章や第6章は、そうした視点で大変興味深い内容だ。若きビジネスパーソンや、これから社会人になろうとする学生諸氏にも一読をお勧めしたい。

日経ビジネス2011年12月5日号 76ページより目次