顧客先の事務機やプリント枚数などを減らす業務効率化サービスに力を入れる。モノの販売から提案営業へ。組織を見直し、社員の意識改革も進める。顧客のコスト削減に成功すれば信頼を得て、機器も使ってくれる「両面作戦」と言える。

(写真:山本 琢磨)

 プラント中堅、JFEエンジニアリングの総務部でビジネスサポート室長を務める坪田紀昭氏は、新たに導入した事務サービスの効果に納得している。

 同社が導入したのは、富士ゼロックスが提供する事務機の運用管理受託サービス。一般に「マネージド・プリント・サービス(MPS)」と呼ばれ、顧客企業の複合機やプリンターなど出力機器の運用管理を請け負うもの。機器の最適配置や稼働率の改善により、印刷関連コストの削減や業務の効率化などにつなげるサービスだ。

 「本社や支店、グループ会社など国内の約20拠点で使う印刷関連コストを年間で約30%、金額で1億円以上削減できた」と坪田室長は話す。

 JFEエンジニアリングが富士ゼロックスのMPSを導入したのは2009年末。同年春にスタートした業務刷新プロジェクトの一環で、印刷や資料作成などのドキュメント(文書)関連業務の見直しに着手したのがきっかけだ。

 そこで、もともと事務機で取引関係のあった富士ゼロックスからMPSの提案を受け、採用を決めた。

 現在では、国内のほぼすべての拠点で事務機の運用管理を富士ゼロックスに任せるほか、主要拠点の鶴見製作所(横浜市)では、図面や提案書などを製本する社内印刷所(集中出力センター)の運営も委託している。

 MPSの導入により、各拠点で同じ出力環境が整い、事務機の台数も最適化(=縮小)した。以前は計約600台あった複合機などの設置台数は、実に約200台まで減少。印刷用紙やトナーの交換費用、電気代などが減り、大幅なコスト削減につながった。富士ゼロックスに支払う管理・運営費を差し引いても、十分にお釣りが来る。

 集中出力センターを設置したことで、「顧客に渡す提案書や技術資料などを作る際にも、ドキュメント作成のプロの支援を得られ、営業力の強化や生産性の向上につながっている」と坪田室長は満足げだ。

 富士ゼロックスは今、MPSに代表されるドキュメント関連業務のアウトソーシング(業務の外部委託)事業を「グローバルサービス」と名づけ、機器販売に並ぶ主力事業へ育てようとしている。顧客企業のオフィスのコスト削減を実現しつつ、仕事の生産性を向上させる。一見、相反するようにも見える目的の両立を目指す。

 「モノを売る」から「サービスを売る」へ。富士ゼロックスは事業構造の転換を急ぐ。この背景には、これまで事務機メーカーの成長を支えてきた、「機器(複合機)を売って、消耗品(トナー)も売る」という事業モデルに陰りが見え始めていることがある。

 2008年のリーマンショック以降、先進国を中心に企業の節約志向が鮮明となり、事務機やトナーの販売が減少。単価も下落傾向が続いている。

 また、一般的なオフィスに置かれる複合機やプリンターは、印刷の速度や仕上がり具合で性能に大きな違いを出すのが難しくなりつつある。そのため、企業も特定のメーカーの製品にこだわらなくなっている。

 事務機メーカーが成長加速に向け再びアクセルを踏むには、サービス事業へのシフトが避けられない状況だ。

社員の意識と働き方から変える

 富士ゼロックスはグローバルサービスのほか、ダイレクトメールやカタログなど小口印刷業務を支援する「プロダクションサービス」も展開する。

 山本忠人社長は、「2014年3月期にはサービス事業の売上高比率を現在の2割から3割程度まで引き上げる。その後、できるだけ早く5割の水準まで持っていきたい」と目標を語る。

 同社に25%を出資する米ゼロックスは2010年2月、米国のIT(情報技術)業務受託サービス大手を買収。2011年度はサービス事業の比率が5割に迫る見通しで、富士ゼロックスを上回る速度で構造転換を進める。共通のサービス基盤を持つ富士ゼロックスにとっては、格好の道しるべだ。

 もっとも、サービス事業を収益源とする戦略は、リコーやキヤノンなど他の事務機メーカーにも共通する。世界では米ヒューレット・パッカード(HP)も存在感を見せる。

 競合に先んじるため、富士ゼロックスは社員の「意識改革」に力を入れる。いくら目標を掲げても、社員の働き方が変わらなくては達成できない。MPSなどのサービス販売には、複合機などの機器販売とは異なる交渉姿勢や相手からのニーズのくみ取りが求められる。

 例えば営業社員の場合、機器販売では「どの製品をどれだけ売るか」が重要だった。一方、サービス販売では「売るものは決まっておらず、『何を売るか』を見つけ出すことから始めなければならない」(グローバルサービス営業本部サービスプロフェッショナル営業部の阪本雅司・統括部長)。

 そのため、顧客先では製品の特徴を「話す」のではなく、顧客の様々な経営課題を「聞く」ことが求められる。

拡大する事務機運用管理の外部委託ニーズ
マネージド・プリント・サービスの世界市場規模と予測
富士ゼロックスの連結売上高の分野別構成比

「5つの柱」を着実に進める

 富士ゼロックスは社員の意識改革に向けて、5つの柱を取り入れる。その内容は多彩だ。

 山本社長が掲げた基本方針は、「言行一致」。まずは自社で業務コストの削減を徹底した。社内のコピー枚数やパソコンの台数、携帯電話代といった社員のコミュニケーションにかかっているコストをすべて洗い出し、「これを削減しながら、仕事の生産性を上げるように」と全社に指示を出した。

 生産性を上げるには何が必要かを考えること。それが、サービスを売る際の「課題を発見する」という“目線”を身につける訓練になる。「実際、これで当社のコミュニケーションコストは随分減った」と山本社長は振り返る。

 それと並行して営業組織を見直し、社員の役割を明確にした。

 顧客企業の担当営業とは別に、グローバルサービスに特化した「専門営業」と、顧客企業の業務分析・環境分析を行う「アセスメント担当者」を設けた。その数は国内だけで計100人以上。3年前に比べて3割程度増えている。

 専門営業とアセスメント担当者は、企業の担当営業や販売会社の社員と一緒に顧客先を訪ね、商談を行う。幅広い知識や経験を持つスタッフが的確な課題発見や対策の提案を行い、受注や顧客の信頼度向上につなげる狙いだ。

 専門営業とアセスメント担当者の多くは機器販売の営業出身だが、現在の仕事はあくまでサービスの推進。役割を明確にして、営業社員と協力する。

ロールプレイ研修での作戦会議の様子。研修はこれまで日本と韓国で実施している

 3つ目の柱は、営業スタッフが参加し、週に2回行う「案件検討会」にある。継続中の案件や終了した案件の事例を報告し、ほかのメンバーに相談したりアドバイスをもらったりする場だ。参加者は、顧客に提案する解決策の「引き出し」を増やせる。

 さらに社員教育では、営業現場を擬似的に体験する「ロールプレイ研修」を取り入れた。架空の顧客企業を設定し、マネジャー社員が顧客側の交渉相手役を演じる。そこに担当営業や専門営業、アセスメント担当者がチームとなって訪問し、課題を聞き出し、解決策を提案する。このような商談のステップを体験する教育プログラムだ。顧客から想定外の要望があった場合などの対応力を磨くのが目的だ。

 「案件の情報共有や研修による社員の意識改革は、実際に契約単価の上昇や商談期間の短縮などに成果が表れている」と阪本部長は自信を見せる。

 5つ目の柱はチェック機能だ。営業の提案や交渉の内容に不備や改善点がないかを調べる部署もある。

 ディール・ガバナンス・オフィスと呼ばれる専門部署の社員が、“第三者”の立場で商談プロセスを検証し、「設置する事務機の構成はこう変えたら、より効率的では」「こっちの業務もサービス範囲に加えた方がいい」といった提言を現場に対して行う。専門部署に蓄積された経験やノウハウを活用し、冷静な視点の下でサービスの品質を担保するのが狙いだ。

 企業のコスト削減やセキュリティー強化の需要は強く、MPSの世界市場は当面、年率10%強で拡大すると予想される(左の棒グラフ参照)。富士ゼロックスが事業展開する日本とアジア太平洋地域では、最近までMPSの認知度が低かったこともあり、これを上回るペースの伸びが見込まれている。

 富士ゼロックスは、米ゼロックスと合わせ160カ国以上で共通のサービスを提供できる基盤を持つ。グローバル展開する日系企業やアジア企業からの受注競争では、大きな強みとなる。

 今年7月には、MPSの概念を拡張した新サービス「エンタープライズ・プリント・サービス(EPS)」を投入した。オフィスの事務機と集中出力センターが連携して遠隔出力を効率よく処理する機能や、モバイル環境からの出力、メール室の運用管理などのサービスを提供し、企業内の文書関連業務をまとめて引き受ける。

 「受託した業務全体でのコスト削減効果に加え、生産性の向上で企業の競争力強化にも一層寄与する」とグローバルサービス営業本部の岡野正樹部長は言う。EPSを基盤に、販促物の企画・作成、顧客データの入力・管理、資料翻訳、経理業務などドキュメントにかかわる様々な業務も請け負う狙いだ。

 また同社は、顧客企業向けのヘルプデスクや契約後のサービス運用部門の能力増強、人材教育にも力を入れる。グローバルサービス営業本部サービスデリバリーオペレーションズの旗生泰一・統括部長は、「MPSなどでは、顧客企業の業務が常に最適化された状態にあることが必要。日々変化する企業の課題に対し、機器データを基に改善策をいつでも提案できる体制を構築しているのも当社の強みだ」と語る。

「モノ」から「サービス」を売るへ

富士ゼロックス流
「意識改革」へ5つの手法

隗(かい)より始めよ
顧客企業の課題を発見するための“目線”を身につけるため、まずは自社内の業務改善を徹底することから始める。

役割を明確に
サービス事業の商談や企業分析には幅広い知識が必要。各自が専門的な役割を持ち、協力して事に当たる。

ロールプレイ研修
「何を売るか」を見つけ、顧客企業に提案する能力は経験で培われる。営業現場を擬似体験し、対応力を磨く。

「引き出し」を増やす
継続中の案件や終了した事例の情報を共有することで、顧客の要望に柔軟に対応する多様な「引き出し」を持つ。

商談プロセスを“第三者”がチェック
サービス事業に「明らかな正解」はない。より良いサービスを提供するため、商談の内容を検証する「別の目」も必要だ。

サービス契約を機に機器拡大も

 もちろん富士ゼロックスはサービス事業ばかりを強めて、機器販売・リースをやめるわけではない。むしろサービス化をてこにして、機器事業も強めることを狙う。サービス事業では、顧客企業をがっちり囲い込むことが欠かせない。企業の全拠点の事務機運用などを一括受託することで、自社製品の大量導入につながるケースもある。「取るか取られるか」。サービス事業と機器事業は表裏一体の関係にある。

 JFEエンジニアリングのケースでは、以前あった事務機約600台のうち、富士ゼロックス製品は実は2割程度しかなかった。しかしMPS導入後、総台数は約200台に減ったものの、ほぼすべてが富士ゼロックス製品に置き換わった。こうして企業と長期契約を結べば、自社製品の継続利用を通じて安定した売り上げにも結びつけられる。

 ただ、書類のデジタル化やデータ管理などのアウトソーシング領域が広がれば、今後は事務機メーカーだけでなく、IT関連企業などとぶつかる局面も増えそうだ。世界の全拠点で一気に効率化を進める企業も多いだけに、IT化への対応やグローバル展開の一段の強化も欠かせない。ここが今後の成否を分けそうだ。

(小谷 真幸)

日経ビジネス2011年10月3日号 56~59ページより目次