(写真:竹井 俊晴)

 今から7年前の2004年に金融庁長官に就任した際、職員向けの訓示で4つのことを話しました。

 1つ目は「役所の都合ではなく、国民の都合で物事を考える」。行政は国民の役に立つかどうかが唯一の評価基準で、自分の都合は二の次です。

 2つ目は「なぜできないかを考えるのではなく、どうしたらできるのかを常に考える」。官僚というものは、何か解決困難な課題にぶつかると、なぜできないのか延々と話す人が多い。やらない理由を上手に説明するのではなく、どうしたらできるかを考える中で能力を発揮してほしいと話しました。

 3つ目は「情報開示を大切にする」。情報開示とは天日消毒のようなものだと思います。役所には「守秘義務」という名の下に情報公開をしない風潮がありますが、これが“カビ”や“バイキン”の温床になります。情報も天日干しのように白日の下にさらし、不透明さを一掃せねばなりません。

 最後は「悪い情報ほど早く自分の耳に入れてほしい」ということ。金融庁は危機管理官庁としての役割を求められており、強い権限を持ちます。それだけに情報は迅速に共有すべきです。

検査官の士気を高める

 訓示でこれら4つのことを強調したのは、金融庁の前身、金融監督庁の設立に関わった経緯から感じた強い思いがあったからです。金融監督庁を作ったきっかけを一言で言うと、国民の金融行政に対する不信感を払拭するためでした。背景には不動産バブル崩壊以降に起こった住専問題で、巨額の国費が投入されたことや、大蔵省(現財務省)の銀行検査官の過剰接待問題があったことは言うまでもありません。さらに山一証券、北海道拓殖銀行、日本長期信用銀行などといった金融機関が次々に経営破綻し、日本の金融システムはまさに危機状態でした。

 金融機関の検査監督機能を大蔵省から総理府(現内閣府)の外局である金融監督庁に移したことで、職員も異動しました。職員の士気は大蔵省という「本流」から外れたやるせなさもあり、決して高くありませんでした。しかも目前にあるのは前代未聞の金融危機への対処です。自分の検査結果次第で経済の破綻、金融システムの麻痺が起きかねないと臆病になる人も多かった。

 非常に複雑で難しい金融機関への検査業務を、いかに前向きにこなしてもらおうか考えました。そこで職員には、「君たちの仕事は検査であって、検査によって起こる結果を考えることではない」と明言しました。検査業務は状況を把握する仕事で、その結果どうするかを決めるのは監督部の仕事です。行政上の正しい判断をするためにも、正確な実態を調べてほしいと叱咤激励しました。その頃からでしょうか、職員の気持ちもふっ切れたようです。

 非常に過酷な検査でした。国民の信頼回復と金融システム正常化のために邁進したことは今となっては思い出話です。しかし、役人が国民の信頼を得て仕事をすることの大切さと、その責任の重みを忘れないでほしいと思う気持ちはずっと変わりません。(談)

日経ビジネス2011年10月31日号 154ページより目次

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