損害保険会社の海外市場攻略で第2の壁になるのは、日本のノウハウをどう進出先に持ち込むかだ。

 ことに難しいのは、海外進出した日本企業相手ではなく、地元企業、現地住民と契約する場合だ。保険を販売し、着実に契約を履行するために、日本の損害保険各社はノウハウを現地化し、それを従業員に浸透させる必要に迫られる。

 「(ここでの成長の)カギは貯蓄性だけではなく、保障の必要性をどれだけ理解してもらえるかだ」

 インドの投資銀行、エーデルワイス・キャピタルと合弁で今年6月、生命保険会社、「エーデルワイス・トウキョウ・ライフ・インシュアランス(ETL)」を設立した東京海上ホールディングスの星野明雄・海外事業企画部部長兼海外生保グループリーダーは言う。

 インドを含め、アジアの生保市場は、死亡保険など保障型商品よりも変額保険や養老保険など貯蓄(投資)型商品が中心。日本もかつては同様で、経済が発展し、豊かさが増してくると次第に保障型商品に需要が広がっていくという。星野氏も保障型保険をどう消費者に訴求するかに日々知恵を絞るが、「重要なのは何よりも現地従業員の教育」と力説する。

ここ数年、急激に増えてきた
3メガ損保の海外利益の推移
注: 3社の2012年3月期は会社予想。同年度の海外比率は予想を基に算出。それ以前の純損益は、NKSJの場合、損害保険ジャパンと日本興亜損害保険の数値の単純合算。MS&ADは旧三井住友海上グループホールディングスの数値。東京海上の2004年3月期以前の数字は旧・東京海上火災保険単独の数値。また同社の「修正利益」は損保特有の各種準備金の影響を除き、資産売却や評価損益など、源泉が当期だけのものを控除して純粋な当期損益を示すことを狙った指標

「プッシュ」から「引き出し」へ

 日本の大手3社とも、現地従業員の教育を重視しているが、まずは三井住友海上のケースを見てみよう。

 同社は昨年秋、マレーシアで銀行、保険などを手がける複合企業集団、ホンリョングループと提携した。傘下のホンリョンアシュアランスの損保事業を前出のMSIGマレーシアに統合するとともに、ホンリョン側に残った生保事業に30%出資した。

 それ以降、特に力を入れ始めたのが、グループ内のホンリョン銀行の窓口での生保・損保商品の販売だ。そして、そのための従業員教育にも積極的に取り組んでいる。

 「マレーシアで従来主流だったのは、商品内容の説明に偏重し、売りたいものだけを売ろうとするプッシュ型営業。まず、そこから変えなければならなかった」。MSIGからホンリョンアシュアランスにテクニカル・アドバイザーとして出向中の床井秀史氏は打ち明ける。

 例えば、「『お子さんが○年後に進学する時の教育資金に充てるためにこの商品を買って』ではなく、『進学時にどれだけ資金が必要か知っていますか』から入る」と床井氏。アジアではまだ、顧客自身があまり気づいていないようなニーズを引き出すコンサルティング型営業は一般的ではない。

 このため床井氏らは、日本のMS&ADグループ内の三井住友海上きらめき生命保険で使用していたマニュアルをアレンジし、約40ページにわたるマレーシア用接客資料を作成。この資料を使い、今年6月から本格的な教育を始めている。

ホンリョンアシュアランスからホンリョン銀行に派遣されて生保販売をしているタン・メイジー氏(右)/写真:谷貝 豊
行員教育に使っているマニュアル

 そこで重視したのは窓販要員の考え方を変えること。「日々の自分の行動を振り返ろう」「コミュニケーションのハードルを乗り越え、信頼関係を築こう」「総合的金融サービスプロバイダーに」――。マニュアルは絵入りできめ細かく意識変革を訴える。研修では、実際の窓販営業に見立てたロールプレイングゲームも行い、ビデオ撮影して現地従業員に自己分析の材料にしてもらった。

 今年9月からは貯蓄型だけでなく、養老保険に入院・介護など医療保障をつけた商品の販売もスタートした。このタイプの保険は、マレーシアではまだ珍しい。顧客ニーズをくみ取るために、商品の幅を広げたのである。

 ただし、新たな試みも緒に就いたばかり。「9月末からは窓販の現場に入って、顧客の反応や従業員の意見などを聞いてさらに教育方法を考える」(同じくテクニカル・アドバイザーとして出向中の寺村健太郎氏)。損保の海外利益は今や全体の30~40%に達する柱となったが、それを支えているのはこうした地を這うような活動である。

(編集委員 田村 賢司)
日経ビジネス2011年10月10日号 66~68ページより目次