ギリシャを震源とする欧州債務危機が大詰めを迎えている。銀行の資本増強や救済基金の拡充など、応急手当ては整った。だが、問題解決には中長期的な成長戦略の確立が不可欠だ。

 欧州連合(EU)27カ国とユーロ圏17カ国は、10月23日と26日の2日間を費やして首脳会議を開いた。トップ会談の合間にも閣僚級折衝が続く異例の集中日程で、銀行の資本増強やギリシャの債務削減、救済基金である欧州金融安定基金(EFSF)の実質的な規模拡大など、危機対応策の詳細を議論した。

欧州連合(EU)首脳会議後の記者会見に臨むヘルマン・ファンロンパイEU大統領(写真:AP/アフロ)

 「(ユーロ圏だけではなく)27カ国からなる単一市場の統合性を守ることは、決定的に重要だ」。ヘルマン・ファンロンパイEU大統領は、欧州が一丸となってユーロ危機を乗り切る決意をアピール。だが、各国ではEUやユーロに対する懐疑論が広がっている。

英国で広がる“脱EU”求める声

 「EUとの関係を見直すべきだ」――。10月24日、英下院で、EU加盟存続の是非を問う国民投票の実施を求める動議が出された。約6時間もの討論の末に111対483で否決されたが、世論調査では離脱支持が47%で加盟存続の33%を上回る。英メディアによると、ニコラ・サルコジ仏大統領は首脳会議で、「我々(ユーロ圏)を非難しつつ、あれこれ指図するあなた方にはうんざりだ」と、英国に怒りをあらわにした。

 英国だけではない。ポーランドは、2012年のユーロ導入目標を撤回している。今すぐユーロを導入しない方が、自国の経済成長に有利との判断だ。

 EUにとって、加盟国を増やし、単一市場とユーロ圏を拡大することは、経済成長を続けるための最重要戦略である。ファンロンパイ大統領は、「危機の原因の1つは、ユーロ圏における各国経済の相互リンクを過小評価したことにある」と統一通貨の運営面で不備を認める一方で、「単一市場が(欧州の経済成長にとって)最良の手段であることに変わりはない」と強調した。

 実は、ギリシャ問題への対応策に注目が集まる中で、EUは成長戦略に関しても重要な決定を下している。今年9月、EU域内の経済統治を強化するための6つの法案を採択した。財政悪化の防止に加え、EU域内の不均衡是正などを盛り込んでいる。早ければ来年1月から、この枠組みを導入する。

元凶は財政規律だけではない

 銀行の資本増強やEFSFの拡充などが債務危機を鎮静化させる応急手段だとすれば、この新たな枠組みは中長期的な成長戦略の核となる。そもそも、債務危機の原因は、財政規律の問題だけではなく、単一通貨の導入を機に、ドイツなどの中核国とギリシャなどの周辺国の間で経常収支の不均衡が急速に拡大したことにもあるからだ。

 ユーロの導入後、周辺国は競争力強化のための構造改革を後回しにし、ドイツの信用力を背景に低金利で借金をして消費を膨らませた。一方、ドイツは労働市場など地道な構造改革をしつつ、消費バブルに沸く周辺国への輸出を増やし、競争力をさらに高めた。

 危機対応では、ドイツなど中核国はギリシャやイタリアなどに対して、財政再建のための緊縮政策を強いている。だが、競争力が高まらないまま緊縮政策が長引けば、低成長が常態化して債務の返済可能性はさらに遠のき、危機は再燃しかねない。とはいえ、各国の産業基盤は異なるため、「ドイツの成長モデルを周辺国がまねることはできない」(英HSBCの主任エコノミスト、スティーブン・キング氏)。

 米ゴールドマン・サックスによれば、ユーロ圏は今年第4四半期から緩やかな景気後退に入り、来年の経済成長率は0.1%に落ち込む。債務危機の長期化でユーロの求心力が弱まる中、欧州は単一市場の統合・深化を進め、再び成長軌道を描けるのか。本当の試練は、そこにある。

(ロンドン支局 大竹 剛)
日経ビジネス2011年10月31日号 18ページより目次

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