橋や道路、機械などの振動エネルギーを電気エネルギーに変える「振動発電」。センサーなどの配線や電池交換の手間が不要となり、コスト削減にも役立つ。様々な方式の小型振動発電機の開発が進み、本格的な実用化の時期が迫っている。

 身近にある小さな振動から電力を作り出し、機器を動かす。それを実現するのが「小型振動発電機」だ。

 普段は見過ごされてしまうような物体の動きや熱、光、電磁波などのごくわずかなエネルギーを有効活用する「環境発電」の1つで、その利便性の高さに近年、注目が集まっている。

主な小型振動発電機の発電原理と特徴
小型振動発電機には、発電原理の違いにより主に3つの方式がある。一般に「静電容量の変化」方式は薄型化しやすく、「圧電効果」方式は様々な振動パターンに合わせやすい。丈夫で発電量が比較的大きい「逆磁歪効果」方式への注目度も高まっている
注:このほか電磁誘導の発電原理を用いた振動発電機もあるが、小型化には向いていない。Hz=ヘルツ、W=ワット、μ=マイクロ(マイクロは100万分の1)

 最大のメリットは、この技術を導入した機器では長い配線や電池交換の手間が不要になることだ。

 例えば、高架橋に小型振動発電機を取りつけ、橋の上を自動車や電車が走る振動で得られた電力を構造物の異常検知センサーや無線機器に供給すれば、橋の監視や保守点検に役立つ。

 環境発電技術への関心が高まっている背景には、周辺機器の進化がある。電力を使うセンサーや無線機器、蓄電池などの省電力化、高効率化が進んだおかげで、小型振動発電機から得られるような微小な電力が、ようやく実用可能な段階に近づいているのだ。

電極が動くと発電開始

 小型振動発電機は、発電原理の違いからいくつかの方式に分かれる。

 オムロンでは「静電容量の変化」の原理を用いた小型振動発電機の開発を進めている。開発品の大きさは100円玉程度と小さく、重さも4g弱と軽い。

 静電容量とは、電気を通す物体(導体)が電気を蓄える能力のこと。プラスまたはマイナスの電荷を帯びた(帯電した)物体に導体を近づけると、導体の帯電物体側に帯電物体とは逆の極性の電荷が生じる「静電誘導」という現象が起こる。一般的な電子部品のキャパシターの基本原理でもある。この静電誘導で、導体にどれほどの電荷が蓄えられるかを表すのが静電容量だ。

 オムロンの装置は、振動により導体が移動することでこの静電容量が変化し、電圧を発生させる仕組みだ。

 エレクトレットと呼ばれる、半永久的に電荷を持つ材料を用いる。装置はマイナスに帯電したエレクトレット電極基板と、金属製のメタル電極基板を向かい合わせた構造だ(下の図を参照)。装置が静止している状態では、エレクトレット材料と向かい合った対向電極に、静電容量に応じて一定のプラスの電荷が生じている。

振動で基板がスライド 電荷が移動して電流に
オムロンの小型振動発電機の仕組み

 ここで振動が加わると、メタル電極基板がスライドして対向電極の位置がずれる。静電容量は電極が向かい合う面積が大きいほど、また電極間の間隔が狭いほど大きくなる性質がある。振動で位置がずれると、エレクトレット材料と対向電極の向かい合う面積が小さくなるため、静電容量が減る。

 すると静止状態で生じたプラス電荷の一部が蓄えきれなくなり、メタル電極基板から電荷が移動し始める。つまり電圧が生じて電流が流れるということで、これが振動エネルギーを電気に変える仕組みだ。オムロンの技術本部・コアテクノロジーセンターの内田大道参事は、「当社の持つ精密メカ技術を応用し、2枚の基板の微小な間隔を維持しつつ片側を大きくスライドさせる駆動部を実現した」と説明する。

 開発品の発電量は30ヘルツ(Hz、1秒間に30回)の振動で約100マイクロワット(μW、マイクロは100万分の1)。蓄電池などと組み合わせて発電した電気を少しずつためておけば、センサーなど周辺機器の電力源になる。

高速道路で有用性を確認

 オムロンは現在、ネクスコ東日本エンジニアリングと共同で、この開発品を高速道路の高架橋に設置して実証実験を行っている。将来的に温度や圧力、照度などのセンサーや無線機器と組み合わせ、高速道路の保全点検管理での活用を目指している。発電機自体も振動センサーとして利用する考えだ。

 ネクスコ東日本エンジニアリング・開発部の藤原博・研究主幹は、「車両通行時に平均10μWの発電量が得られることが分かった。高速道路に設置するセンサーの大半は1日や1時間に1回程度、情報発信できればよく、有用性は十分ありそう」と評価する。道路標識への設置も検討しているという。

 オムロンでは、2015年頃から小型振動発電機の本格的な実用化を目指しており、橋梁など構造物のメンテナンス用途のほか、「自動車に載せるセンサーの電源や、輸送コンテナの追跡管理用途など、幅拾い分野での応用を考えたい」(内田氏)としている。

 エレクトレット材料を利用した小型振動発電機は、村田製作所や三洋電機なども開発を手がける。

 村田製作所はまた、発電原理に「圧電効果」を用いた装置の開発も進めている。使う材料は、力が加わると電圧を発生させる特殊なセラミックスだ。圧電素子と呼ばれ、一般には圧力センサーやライターの点火装置などに使われる。

村田製作所がCEATECで展示した小型振動発電機(左)。振動で作り出した電力で温度センサーを動かし、さらに無線でデータを送信している

 基本的な構造は、圧電素子を取りつけた金属板の一端を固定し、もう一端に重りをつけたもの。装置が振動すると重りが揺れて圧電素子にひずみが生じ、圧電効果によって電圧が発生する仕組みだ。

 発電量は装置の大きさによる。例えば10月に開かれた展示会「CEATEC」に出展した手のひらの半分サイズの開発品では、「数十Hzの振動で数十μWの電力が得られる」(技術・事業開発本部の中寺和哉係長)。センサーや蓄電池、省電力の無線機器を組み合わせ、「10秒に1回、無線で情報を発信できる」という。発電量は少なくなるが、指先でつまめるほどの、より小型の装置も開発している。

 工場にある生産機械に取りつけて異常検知センサーの電力源に使ったり、ビルの空調機器や機械室の機器に取りつけてメンテナンスに用いたりといった利用シーンを想定している。

 技術的には既に実用化できる水準にある。ただし、実際に使う際には設置場所や振動パターンなどの状況に合わせた装置の設計や調整が必要になる。今後、企業などと導入作業に取り組み、「2~3年後には工場などで使われる状況を目指したい」と中寺氏は言う。

1年後にも搭載製品が登場

 金沢大学の上野敏幸准教授が研究・開発する、「逆磁歪(じわい)効果」を利用した小型振動発電機も実用化が近そうだ。

 逆磁歪効果とは、圧力を加えると物体の磁化が変化する現象で、こうした性質を持つ材料を磁歪材料と呼ぶ。

材料をゆがめて電力を取り出す
金沢大学の小型振動発電機の仕組み
振動で磁歪材料がゆがみ、磁束が変化。コイルに誘導電圧が発生する。材料を磁化させるため永久磁石を用いる
電動歯ブラシに小型振動発電機を取りつけて振動させ、ライトを点灯させるデモの様子

 上野准教授が開発した装置は、磁歪材料の一種である鉄ガリウム合金の細長い棒を2本、平行に並べてコイルを巻き、一端を固定してもう一端に重りをつけた構造だ(上の図を参照)。

 振動でこの重りが揺れると、磁歪材料に曲げ圧力が生じる。この際、一方の材料には圧縮力が、もう一方には引っ張り力がかかる。振動を繰り返すと圧縮力と引っ張り力が交互にかかり、これに応じて材料の磁化が変化して、周囲の磁束も周期的に変化する。磁束の変化によってコイルには誘導電圧が発生し、電力を取り出せる仕組みだ。

 磁束の変化でコイルに電流を流すというのは、一般的な発電機の基本原理と同じだ。

 開発品は鉛筆の先ほどの小型サイズながら、300Hz程度の速い振動時に2mWの発電量が得られるという。上野准教授は「鉄ガリウム合金は丈夫な材料で、装置の構造もシンプルなため、作製が容易で大きな振動でも壊れにくいのがこの方式の利点」と説明する。

 技術的にはほぼ確立できている状況で、現在では1本の磁歪材料で作った、よりシンプルな構造でも同じように発電できることが分かってきている。

 自動車業界や医療機器業界、おもちゃ業界などから引き合いが増えており、一部とは既にライセンス契約を結んでいる段階にある。「早ければ1年以内にも、この技術を使った製品が登場する可能性がある」と上野准教授は言う。

 身の回りに実はたくさんありながら、気にも留めない人が多い微小な振動のエネルギー。しかし、こうした小型振動発電機でエネルギーを“収穫”すれば、企業活動や消費者の生活にも有効に活用できる。世界が抱える電力需要増大という課題の解決にも一役買う先端技術だ。

(小谷 真幸)
日経ビジネス2011年11月7日号 88~90ページより目次