11月1日、東証マザーズの上場が承認された、25歳の若きベンチャー経営者。インターネットの技術力を武器に、人材仲介ビジネスで急成長を果たす。「カネや名誉に興味が薄い」「世界を意識しない」という新世代トップに迫る。

(写真:菅野 勝男)
村上 太一(むらかみ・たいち)氏
1986年10月東京都生まれ。2002年4月早稲田大学高等学院に入学し、起業に向けた準備を開始。2005年4月早稲田大学政治経済学部入学、大学1年で起業家養成講座のコンテストに優勝。大和総研、IT(情報技術)関連企業のインターンシップを経て、2006年2月リブセンスを設立。

 12月7日に東証マザーズに上場予定のリブセンスは、村上太一社長が2006年、早稲田大学1年生の時に起業したベンチャー企業だ。主力事業は、インターネットでの求人サイトの運営。「成功報酬型」と呼ばれるユニークなサービスを展開、事業を急拡大した。2011年12月期の売上高は前期比69%増の10億7600万円、経常利益は同110%増の4億5600万円を見込む。

 これだけの注目を頂いて、正直驚いています。上場は大変うれしいことですが、あくまでも通過点です。むしろこれからが正念場になります。

 起業した時から、事業を大きくしていくことは考えていましたし、そのプロセスの1つとして上場は必要だと思っていましたから、それを通過できたことに、今は喜びを感じています。

 リブセンスは、インターネット上で様々なサービスを提供する会社です。経済活動で情報の非対称性によって生じている様々なギャップを、ネット技術を駆使して解決することが僕らの使命だと思っています。その1つの形が、現在の主力事業である求人情報仲介サイト「ジョブセンス」です。

高水準のインターネット技術を駆使した求人情報サイトで人気を集める

 サービスの特徴は「成功報酬型」の仕組みを取っている点です。一般に、求人広告というと、採用の成否にかかわらず、クライアントから広告掲載料を頂きます。僕らは、採用や登録が決まった時に成功報酬を得るようにしています。同時に、求職者に対しても「採用祝い金」を贈呈しています。例えば、アルバイトが決まった求職者には最大2万円を贈る。今では、ほかの業者も求人サイトで成功報酬型を導入していますが、先行者メリットを生かし、全国チェーンの大手企業などをクライアントとして獲得しています。アルバイトの求人情報は、現在4万件ほど掲載しています。

 ただし、僕らの競争力は、人材仲介のビジネスモデルそのものではありません。ネット技術こそが強みなのです。

 どういうことか。顧客との接点は、サイト画面ですね。この画面操作を、どう使いやすくするか、24時間365日考え続けている、とイメージしていただければ分かりやすいでしょう。

 例えば、サイトの中に検索窓があります。ここに、「漫画喫茶」と入力して検索すると、通常ならば「漫画喫茶」が含まれる情報が出力されてきますよね。でも、我々のサイトでは、「ネットカフェ」といった近いキーワードの結果も併せて表示します。ですから、ハンバーガーのアルバイトを検索した人に、似た労働条件の牛丼店の募集案内も結果として見せるような仕組みを作っています。

 もう1つは、利用者がアルバイトを探しにグーグルなどで検索した時に、ジョブセンスというサイト自体が、検索結果の上位に登場するようなシカケも施しています。こうした、表からは見えにくい細かい技術の積み重ねで、どのサイトよりも使い勝手のいい求人サイトを構築しています。ですから、僕らは人材仲介業ではなく、ネット企業なんです。

 高水準のネット技術を維持するためには、開発環境をすべて自前で持っておく必要があります。上場の理由の1つは、知名度を高めて、優秀なエンジニアを集めたかった、という事情もありました。

5年ぶりに記録更新
過去の主な最年少上場経営者

リクルートとは似て非なる会社

 人材ビジネスの世界には、リクルートという巨大な存在があります。子会社を通じて、当社に近い成功報酬型のネットサービスを展開し始めています。しかし、基本的には目標とするポジションが違うと考えています。

 私なりに分析した結果ですが、リクルートをはじめとした、これまでの人材仲介業は、自前の媒体を用意し、そこに大量のクライアントからの求人広告を出稿してもらう形で成長を果たしてきました。極めて労働集約的な事業となります。だから、営業マンが多いほど売り上げも増える。規模を追うビジネスです。

 ところが、リブセンスは違う方法論を取っています。営業マンはほとんどいません。代わりに、出稿も集客もネットでほぼ完結させています。おまけに、成功報酬まで支払うので、収益はリクルートに比べれば少ない。しかし、固定費はほとんどかかりませんから、小さな儲けを積み上げても、それなりの金額になるのです。これが、ネットビジネスの本質だと思いますし、だからこそ、僕らはネットの技術力を磨き続けています。

村上社長は、どこにでもいそうな25歳の若者に見える。父も会社員で、商売人ではない。だが、小学生の頃から「社長になりたい」という思いを抱いていた。

 漠然と「社長になりたい」と思い始めたのは小学生の頃。周囲の人が欲していることを実現して感謝されることに喜びを感じていました。その延長線上で考えると、「社長」になってより大きなことを実現したい、と。

 せっかちな性格で、高校の時には、既に事業アイデアを温めていました。ある時、アルバイトを探そうとして無料誌で求人を見つけました。それをネットで確認したら、掲載されていない。「不便だな」と思って、理由を調べてみました。すると、求人広告を掲載し続けるには、出稿料が必要だと分かった。当たり前なんですけど、当時からアルバイトはネットで探していたので、この違和感にビジネスチャンスがあると考えたんです。

 早稲田大学の付属高校に通っていたので、事業構想を練りながら、早大に進学しました。「起業するなら早くやりたい」と、理系だったのに大学は政治経済学部に入りました。

 転機は、大和証券の寄付講座だった「ベンチャー起業家養成基礎講座」でした。そのコンテストで、成果報酬型の求人ビジネスを発表して優勝しました。優勝すると、大学内の起業用のオフィスを1年間、タダで貸してもらえるんです。これを機会に会社を設立しました。両親に相談したら、「若いんだし、思い切ってやったら」と。創業メンバーは大学生4人。1人はすぐに辞めてしまいましたが、ほかの3人は今も会社でバリバリ働いています。

日本のベンチャー企業の成功者と言えば、ソフトバンクの孫正義社長が代表例だろう。彼は今、54歳。その下の世代は、楽天の三木谷浩史社長が続く。そして、グリーの田中良和社長は30代。では、20代のベンチャー起業家はどんな価値観を持っているのだろうか。

「世界と戦う」という意識はない

(写真:菅野 勝男)

 同じ世代の起業家仲間はたくさんいますが、僕らの世代と先輩起業家の方々とは、「起業」に対する考え方が少し違うかもしれません。うまく言えないのですが、同世代には、「お金持ちになりたい」「名誉を得たい」というような野心を抱いている人が少ないと思います。むしろ、「優れたサービスを生み出して、人々の生活に役立つモノになればいい」という思いの方が強いんです。

 「世界と戦う」という意識も薄いかもしれません。というのも、ネットはそもそも世界と直結しているので、いいサービスを開発してユーザーに受け入れられれば、そのまま世界中で売り込める時代になっているんです。例えば、米アップルのiPhoneのアプリを開発して、それが優れていれば、そのまま「AppStore」で販売できて、世界に広まっていく。国境を意識する必要がないんです。

 だからこそ、まず日本で「不可欠だ」と感じてもらえるサービスを開発したい。例えば、料理のレシピサイト「クックパッド」やレストランの口コミサイト「食べログ」は、そんな存在になりつつありますよね。まずはそれに近づくことが、僕らの目標です。

 ネットの世界って、社員が多ければいいモノが生まれるわけではありません。1人の天才エンジニアが、世界を変えるサービスを生み出すことがある。そこに無限の可能性を感じるし、日本からでも世界に誇るサービスが生み出せると考えています。

 上場することで、様々なプレッシャーがかかってくることは覚悟しています。けれど、それを刺激に変えていきたい。今は365日、仕事に集中しています。自宅も、会社と同じ作業環境にしてあり、24時間いつでも仕事をこなせるようになっています。趣味はありませんね。だって、僕にとってこれ以上の楽しい時間は存在しないと思っていますから。

(構成:蛯谷 敏)
日経ビジネス2011年11月14日号 144~146ページより目次