国際エネルギー機関(IEA)が「フクシマ後」のエネルギー市場を予測した。投資効率が悪い再生エネルギーは補助金依存が続き、石炭とガスが勝ち組に。原発開発が減速すれば、エネルギー安全保障と温暖化防止で困難に直面する。

 「フクシマ」後のエネルギー市場は、国民に大きな負担を強いる。そんな予想を、国際エネルギー機関(IEA)が発表した。IEAは11月9日、2035年までのエネルギー需給の基本予測「新政策シナリオ」に加えて、特別に、世界の原子力発電所の開発が計画通りに進まなくなる「少原発ケース」を公表した。

 少原発ケースの前提は、(1)経済協力開発機構(OECD)に加盟する先進国で、建設中の原発を除き、原発の新規建設が停止する(2)中国などOCED非加盟国で、建設中の原発を除き、発電容量の追加が新政策シナリオの半分になる(3)原発の寿命が新政策シナリオより5年短縮される──というものだ。

 IEAのチーフ・エコノミスト、ファティ・ビロール氏は「原発政策は各国政府が決めること」と、1つの可能性として示すと強調する。だが、少原発ケースの公表は、IEAからの警鐘だ。

ガスと石炭の需要が急増

 世界の原発の総発電能力は、2010年末で393ギガワット(GW、ギガは10億)。各国が公約済みの政策による新政策シナリオでは2035年に633GWまで拡大するが、少原発ケースでは2035年には2010年比で15%減る。

 その減少分を補うエネルギーは何か。ビロール氏は、「再生エネルギーにある程度は期待できるが、石炭とガスが勝ち組だ」と話す。新政策シナリオと比べると、総発電量に占める各資源のシェアは、原発が13%から7%に減るのに対し、再生エネルギーは31%から32%へ、石炭は33%から36%、ガスは22%から24%へと増加する。

再生エネに加えガスも急増
資源別の発電量(テラワット時)とシェアの予測(注:テラは1兆)出所:IEA World Energy Outlook 2011

 石炭とガスによる発電シェアが数%ずつ増えると、世界の貿易は一変する。石炭需要は、現在のオーストラリアの一般炭輸出量の2倍以上、ガス需要はロシアの輸出量の3分の2も増える。

 需要の急増で2035年時点の石炭とガスの価格は新政策シナリオと比べ、それぞれ約2%、4~6%上昇し、世界の年間総輸入額はそれぞれ220億ドル、670億ドルも増える。IEAは、「原発依存度が大きく資源にも乏しい国は、衝撃度はさらに顕著になる」と、エネルギー安全保障上のリスクを指摘する。その典型的な国が、日本だ。

2035年に補助金2500億ドル

 期待される再生エネルギーにも課題がある。2035年までの投資額の6割を占めるが、発電量の増加には3割しか貢献しない。普及のために莫大な補助金が必要で、2010年は世界で660億ドルだったが、新政策シナリオでさえ2035年には2500億ドルにも達する。

 今月28日から南アフリカ共和国で、第17回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP17)が開かれるが、温暖化対策への決定打は期待できない。新政策シナリオにおける今後25年の累計投資額は38兆ドルだが、長期的な気温上昇を2度に抑える目標を達成するには、再生エネルギーや省エネなどに15兆2000億ドルの追加投資が必要だ。脱原発を進めるなら、さらに1兆5000億ドルのコストが発生する。

 「脱原発で何が起きるか。国民に正直に話す必要がある」とIEAのマリア・ファン・デル・フーフェン事務局長は言う。すべての問題を解決する魔法の技術はない以上、原発を持つも捨てるも覚悟がいる。

(ロンドン支局 大竹 剛)
日経ビジネス2011年11月21日号 97ページより目次

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