7月7日 対巨人11回戦

 石川と内海哲也のエース対決は「2-2」のまま延長戦に突入した。そして、制限時間ギリギリの延長11回裏、執念の采配が実を結ぶ。

 宮本慎也の死球で無死満塁という絶好のチャンス。だが、相川亮二、続く代打・藤本敦士が凡退して2死満塁になった。打者は青木。2010年まで6年連続で3割をマークしている強打者だ。

 カウント2-1(2ボール・1ストライク)。そこで、小川は代走・川本良平を球審に告げた。2-1という中途半端に思えるタイミングでの代走にどよめきが起きる。

 その直後の4球目。青木の打球は二遊間に転がった。好捕した巨人のセカンド・円谷英俊が2塁にトスを送るも川本の足が一瞬勝った。1塁も間に合わず、タイムリー内野安打でゲームセット。1塁走者が相川のままであれば2塁封殺の可能性が高かっただけに、代走・川本という采配が勝利に結びついた試合だった。

7月7日の巨人戦。青木宣親の内野安打の裏には、小川の大胆采配があった(写真:共同通信)

 当時の状況をおさらいしよう。

 節電対策に伴う時間制限のため、11回裏が最後のイニングだった。打者は俊足で内野安打が多い青木。ゴロを転がす可能性が高く、満塁の場面では1塁走者が2塁で封殺される可能性が高い。2塁封殺のリスクを軽減させるために、考えた末に、足が速い川本を代走に送った――。

 言葉で書くと、当たり前の采配に見える。だが、1球ごとに状況が変わる勝負の世界にあって、一瞬の決断は重く、深い。小川は当時をこう振り返る。

 「あれは横にいる佐藤真一(打撃コーチ兼作戦担当)が行きましょうと言ってくれたんですよ。正直、もういいかな、とも思ったけれど、いつも選手に『自分がすべきことをちゃんとやるように』と言っている以上、自分がやらないのもまずいな、と。それで、打席の途中でしたが、代走を出しました」

 これだけであれば、1つの決断がたまたまうまく当たったという話にすぎない。だが、「最善を尽くして負けるのと、尽くさずに負けるのでは意味が違う」と小川が語るように、今季のヤクルトは諦めない姿勢が選手一人ひとりに浸透していた。

 それは、各種データでも明らかだ。

選球眼の良さを示す「BB/K(三振1回に対する四球の比率)」を見ると、ヤクルトはセ・リーグのどの球団よりも高い。四球1つ当たりの打席数を示す「PA/BB」、打席当たりの球数を示す「P/PA」もセ・リーグで2番目の数値だ。接戦で強いのは、「最善を尽くす」ということにチームのベクトルが向いているからだろう。

 それを周知徹底させているのは指揮官、小川である。試合前のミーティング、ミスをした際の指摘など、様々な場面で選手にすり込んでいく。9月18日の試合後もそうだった。

日経ビジネス2011年11月21日号 56~57ページより目次