6月14日 対西武3回戦

 序盤に5点をリードされて敗色濃厚だったヤクルト。だが、中盤にコツコツと点を返していき、徐々に追撃態勢を整える。7回裏には1死1塁で代走・野口祥順(よしゆき)を投入。この回は無得点に終わったものの、バントのために三輪正義を代打に送るなど、勝利への執念を見せた。

 それが実ったのは9回裏。森岡良介、川本良平の連続三振で万事休すと思われたが、代打・宮出隆自がセカンド内野安打。代走に韋駄天・福地寿樹を送ると、次の青木宣親(のりちか)が死球で出塁。2死1、2塁になったところで、田中浩康の適時打で同点に追いついた。

 そして迎えた11回裏。2つの内野安打などで1死満塁のチャンスを作ると、再び田中が犠飛を放ち、サヨナラ勝ちとなる走者がホームを駆け抜けた。野手全員を使い切る総力戦をものにしたヤクルト。これ以降、チームの勢いは増していく。

今年のヤクルトを象徴するように、最終戦は福地寿樹(左から2人目)のサヨナラ打で幕を閉じた

 小川の選手起用の特徴は適材適所を見抜き、選手にふさわしい役割を与えていることだ。その象徴の1人が、終盤の切り札、三輪だろう。

 四国アイランドリーグ出身の4年目。打撃は1軍選手に交じると物足りないが、走塁と守備に限っては高い能力を誇り、バントなどの小技もうまい。このスペシャリストを、小川は競った試合の代走や守備固めとして活用してきた。54試合に出場している一方、打席数が16と少ないことに、三輪の起用法が見て取れる。

 これは三輪に限ったことではない。野口や福地も「終盤の切り札」的な位置づけになっている。彼らの活躍で勝ちを拾った試合は少なくない。

 控え選手が、試合中に何回も集中力を高めることは難しい。ある程度、自分が出ていく場面が想定できれば、そこに合わせて準備を整えることができる。それに、どんな起用であれ、試合に出るチャンスが想定できた方が控え選手たちのモチベーションは高まる。

 「その場その場の役割を明確に持って試合に臨むことができている。投打のバランスは、そういう小さなところからかみ合ってくる」と主砲の畠山が語るように、適材適所の選手起用がチーム力を高めているのは確かだ。

 選手の評価も「結果重視」というモノサシで一貫している。例えば、中継ぎ投手として活躍したトニー・バーネット。当初は負け試合で投げていたが、敗戦処理で結果を出し、中継ぎエースに昇格した。先発の柱に育った赤川克紀もそう。負けゲームのロングリリーフで頭角を現し、シーズン終盤は先発として獅子奮迅の働きをした。

 2軍から上がってきた選手もベンチに置いておかずに、できるだけ早い機会で出場のチャンスを与える。しかも、1回のミスで2軍に落とさず、2回、3回とチャンスを与えるが、その機会を生かせなければ、ほかの選手を起用していく。「監督は選手を平等に見ていると思う」。エースの石川雅規の言葉はチームの総意だろう。

 ベンチ入り選手の数が決まっている以上、平等にチャンスを与えることはできない。それは小川自身も痛いほど分かっている。それでも、小川は一人ひとりの適性を見極めつつ、できる限りの役割を与えようとしている。これは決して簡単なことではない。

日経ビジネス2011年11月21日号 55~56ページより目次