小川淳司監督が率いたヤクルトの戦いぶりは、企業人にとっても示唆に富む。戦力を見極め、適材適所の用兵と場面に応じた戦術で、シーズン最後まで激闘を続けた。内部昇格のトップがチームを立て直す―。そのマネジメント手法を見ていこう。

今季のヤクルトは監督・小川淳司(左)の采配で多くの勝ちを拾った(写真:共同通信)

 クライマックスシリーズ(CS)で、シーズン優勝の中日ドラゴンズをあと一歩のところまで追い詰めた東京ヤクルトスワローズ。けがによる戦線離脱が相次ぎ、最後は力尽きたが、レギュラーシーズンの132試合目まで首位を快走した今季の戦いぶりは、戦前の予想を覆した驚異的な内容だった。

 中日とのCSの死闘も、野球ファンを唸らせた。監督8年間で4度のリーグ優勝を果たした名将・落合博満率いる中日を相手に、満身創痍の戦力で互角の戦いに持ち込んだからだ。

 1人当たり年俸は巨人、阪神、中日に次ぐ4番目(セ・リーグ6球団比較)。全国的に知名度のある選手もそれほど多くない。ヤクルトファン以外で、今シーズンの4番を務めた畠山和洋のことを知っている人がどれだけいるだろうか。巨人や中日、阪神に比べれば、戦力は明らかにコマ不足だ。

 だが、戦績を分析すれば、弱い戦力をフルに使い切ったことが分かる。

 チームの総得点と総失点を基に、「これだけは勝てるはず」という勝率を計算したピタゴラス勝率。優勝争いの渦中にいるチームであれば5割を超えるのが普通だが、今季のヤクルトは「.480」と実際の勝率「.543」に比べればかなり低い。それだけ、勝つべき試合を落とさなかったということだ。

接戦での強さは際立っていた
実際の勝率とピタゴラス勝率
注:ピタゴラス勝率=得点の2乗/(得点の2乗+失点の2乗)。チームの総得点と総失点を勝率に換算したもの。「このくらいの得失点であれば、このくらいの勝率が想定される」という考え方
出所:データスタジアム

 特に、接戦での強さは並外れていた。2点差以内勝率は12球団でもダントツの「.639」。試合内に同点、ないし逆転に持ち込んだ試合は65回と、56回の西武を大きく引き離した。総合的な攻撃力を示す「OPS」という指標もリードされている時ほど跳ね上がる。

2点差以内ビハインド・リード別OPS
注:OPS=出塁率+長打率。総合的な攻撃力を表す指標。チームの実際の得点と相関性が強く、打率よりも適正に攻撃力を測ることができる
出所:データスタジアム

 今シーズンは外国人選手のバレンティンと新人選手以外に補強らしい補強はしていない。1勝当たり年俸も広島に次いで低い。現有戦力で効率的に勝ち星を積み上げたことが分かる。これは、監督である小川淳司のマネジメント力に負うところが大きい。

年俸
注:支配下登録選手のみを対象
出所:データスタジアム

 昨年5月、成績不振で退任した高田繁を引き継ぎ、監督代行に就任した。その後、低迷していたチームを立て直し、19あった借金を返していく。小川が指揮を執ってからの勝率は「.621」。この数字は、昨年のセ・リーグ最優秀監督に選ばれた中日の落合を上回る。

 米IBM元会長のルイス・ガースナーが象徴的なように、企業も内部昇格でなく、外部のプロ経営者や子会社社長など外部人材が立て直すケースが多い。それに対して、小川は現役引退後、スカウト、2軍守備走塁コーチ、2軍監督と組織の階段を一つひとつ上って監督になった珍しいケースと言える。

 「2001年の方が圧倒的に強かった」と前回の優勝を知る宮本慎也が認めるように、小川に与えられた戦力は限られていた。その与えられた戦力で、内部昇格の人材が結果を残す――。小川のマネジメントが輝きを放つのはそのためだ。現有戦力で勝つ。その神髄をひもとこう。

CONTENTS

  1. すべての選手に場を与える
  2. 手を尽くして諦めない
  3. ダメな理由は理屈で説明
  4. 勝ちは選手、負けは監督
  5. 選手に頭を下げる

日経ビジネス2011年11月21日号 54~55ページより目次