三菱重工業と日立製作所が中国スマートシティで手を組む。国家プロジェクト「中新天津生態城」での受注を狙うが、行く手には、中国ビジネスならではの壁が立ちはだかる。

急ピッチで建設が進む中新天津生態城。マンション販売は絶好調で、来春にも入居が始まる

 「2年間の準備が、中国側の人事異動で振り出しに戻ってしまった」。三菱重工業エネルギー・環境事業統括戦略室の城衛主席技師はこう打ち明ける。

 同社は、中国とシンガポールが共同で天津に建設中のスマートシティ「中新天津生態城」での受注を目指している。天津生態城は、電力需要の20%を再生可能エネルギーで賄い、省エネを推めることで二酸化炭素の排出量を日本の都市の半分にする目標を掲げる。

 三菱重工は、天津生態城の電力インフラを担う「能源公司」のトップと、エネルギー制御システムなどの具体的な仕様について検討を重ねてきた。ところが今年6月、この人物が別の部署へ異動。人脈が受注のカギを握る中国とあって、受注計画は白紙となってしまった。「中国ビジネスの難しさを痛感した」と城氏は顔をしかめる。

 だが、同社には、ここで受注を諦めるわけにはいかない理由がある。
 天津で実績を作れるかどうかが、今後の中国におけるスマートシティ事業の成否を決めると言って過言でないからだ。現在、中国には1000を超えるスマートシティの計画があると言われるが、天津生態城は唯一の国家プロジェクト。参画できれば、今後の中国展開に大きな弾みがつく。

 実際、天津での実績作りを狙う日本企業は三菱重工だけではない。日立製作所は、専任の幹部クラス人材を受注活動のために現地へ派遣。既に天津生態城のマンションなどでHEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)の受注を決めている。

 昨年11月から現地に駐在する日立(中国)有限公司の野本正明・常務副総経理は「後ろに控える中国、東南アジア市場で優位に立つため、天津ではHEMSで終わらず、地域全体のエネルギー制御まで取りたい」と意気込む。

 日本総合研究所と三菱重工、日立製作所の3社は10月11日、天津生態城内での事業化調査に共同で乗り出すと発表した。三菱重工は発電所など電力の供給を、日立は電力を利用する住宅や商業施設側の制御などを担当する。

経産省もバックアップするが…

 さらに、経済産業省のインフラ輸出の補助金も活用する予定。資金面の支援というよりも、中国政府との交渉に経産省の後方支援を得るのが目的だ。

 ただ、三菱重工と日立が手を組み、経産省まで巻き込んだとしても、今後が順風満帆とは言い切れない。

 「天津生態城は方向性を巡って揺れ動いており、受注は一筋縄ではいかない状況。だからこそ3社での協力を呼びかけた」と日本総研創発戦略センターの赤石和幸・主任研究員は明かす。

 天津生態城の運営組織は、不動産などの建設、販売を手がける「投資公司」と、国や天津市の意向を反映する「管理委員会」に分かれる。

 中国では依然、不動産バブルが続いており、天津生態城もマンション販売は絶好調。このため、投資公司には、住宅価格のコストアップ要因になる太陽電池やHEMSなどの導入に消極的な勢力が根強いという。三菱重工の受注の障害となった能源公司トップの異動もこうした動きと無関係ではない。

 一方、管理委員会には逆に、日本製のエネルギー制御機器の受注に前向きな意見が多いとされる。初期開発区のレビューで中国政府から、再生可能エネルギーの導入などが当初目標に及ばないと指摘されたためで、日本側の関係者からは「まず目標達成へ向けて焦っている管理委員会へのアプローチが有効では」との声が上がっている。キーマンの異動に、関係機関の対立…。中国ビジネスならではの壁を三菱重工と日立が超えられたかは、2012年春にも明らかになる。

(山根 小雪)

日経ビジネス2011年10月24日号 99ページより目次

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