2015年に事故による死亡重傷者数を1995年比で半減する。日産自動車がこの目標に向かって安全技術を披露した。「安全技術」が自動車業界の新たな競争軸となりそうだ。

 駐車場で、うっかりブレーキと間違えてアクセルを目いっぱい踏み込んでしまった。目を覆いたくなるような事故が予想されるが、それとは裏腹にクルマはノロノロと動き、壁の前でピタリと止まる――。

 こんな技術が2年以内に現実のものになろうとしている。10月12日、日産自動車が開催した先進技術発表会。そこで、最も注目を集めたのは安全にかかわる技術だった。

 この技術は日産が開発した「アラウンドビューモニター(AVM)」で実現する。クルマに4台の超広角カメラを取りつけて、真上から自車と周辺を見下ろす視点をカーナビに表示する仕組み。これに写真画像の自動認識機能を組み合わせる。クルマが現在いる場所を駐車場と認識した場合はアクセルを踏んでも止まる。

 AVMを使った安全技術はまだある。駐車場から後方発進する時などに、リアカメラを使って死角から人が接近していると画面上の表示や音でアラートが出すシステム「MOD(移動物検知機能)」。こちらはいち早く今年11月、高級ミニバン「エルグランド」に搭載する予定だ。

 “玉突き事故”を防ぐ新機能も披露した。このタイプの事故は、2台前などドライバーからは死角になって見えないクルマの急減速などが原因となって起きる。そこで、2台前のクルマとの車間距離と相対速度差を計測するシステムを開発したのだ。

駐車場や走行中でも事故を防ぐ
レーダーを前のクルマの下部を通して発信し、2台前のクルマとの距離や速度差を計測

「既にあるもの」を使い倒す

 すぐ前のクルマをすり抜けてもう1台先のクルマの挙動を検知するとは、一体どんなスゴイ技術を使ったのかと思われるかもしれないが、タネを明かせば何ということはない。

 既に開発済みで、数年前からクルマへの搭載が増え始めたミリ波レーダーをそのまま使っているだけ。これまではレーダーを発信して返ってくるまでの時間によって、前方のクルマとの車間距離や速度差を検出していた。では、そのさらに前方のクルマとの距離はどうするかというと、1台前のクルマの車輪の間をすり抜けて返ってくるレーダーを使って検知している。

 もっとも既存技術の組み合わせだからといって、その意義が減ずるわけではない。日産は「2015年に1995年比で事故による死亡重傷者数を半減する」と宣言している。そのためには何よりも普及が大事。高性能なセンサーなどを新たに使えば、高度な事故防止機能を開発することは可能だが、それでは「高価になり、かえって普及しない」(日産幹部)羽目に陥りかねない。

 ドライバーには、事故は基本的に十分に注意していれば防げるもの、という意識が根強くある。その事故を防ぐオプションを、消費者に高額で購入してもらうというのは現実的ではない。その点、既存技術を使えばコストが安く済み、普及も進む。

 適正な価格をつければ消費者は「安全」にもカネを払う、という事実は既に、ライバル企業が実証している。富士重工業やスウェーデンのボルボによる、自動ブレーキをかけてクルマや人への衝突を回避するオプション製品が好調で、本体の販売も牽引する勢いだ。約10万円という手の届く値段にしたことで受け入れられた。

 今夏にはトヨタ自動車も、夜間など悪条件でも交通事故を防ぐ技術を披露している。「安全」が新たな競争軸になりつつある。

(広岡 延隆)

日経ビジネス2011年10月24日号 20ページより目次

この記事はシリーズ「時事深層(2011年10月24日号)」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。