中国で、新たな労働者派遣法制定の機運が高まってきた。現地の日系企業に、安定的な労働力確保をもたらす一方、日系人材サービス企業の中国戦略に水を差す可能性もある。

 日本国内で労働者派遣などを手がける人材サービス企業各社が、アジアでの事業展開を加速している。

 日本国内の人材市場は、少子化や内需縮小に伴い頭打ちの様相を見せている。一方、アジアでは、東日本大震災や円高を機に日本企業が拠点を移転していることもあって、人材サービスへのニーズが急増中。パソナグループやリクルートなど多くの企業が現地での事業拡大を狙っている。

 そんな中、各社が最も力を入れる国の1つ、中国で、派遣法制定の動きが高まっている。

 「中国政府は大至急で法整備に取り組んでいる様子。早ければ1年以内にも、中国独自の労働者派遣法が制定されるだろう」
 そう指摘するのは、請負を中心に製造業を対象とした人材サービス事業を展開する日本マニュファクチャリングサービス(nms)の小野文明社長だ。nmsは2010年末に中国政府系企業と合弁会社を設立。日系企業初となる労務派遣の営業許認可を取得し、中国国内で製造派遣事業に取り組んでいる。

 中国では労務派遣の営業許認可はあるものの、労務派遣関連の法律は整備されておらず、業界を管理する機関も存在しないのが実情だ。そのため、急激な人材需要に伴って派遣会社が乱立する中で、労働争議をはじめとする様々な問題が起き始めている。

 事態を問題視した中国当局は、中国の厚生労働省に該当する人力資源社会保障部の「中国労働学会労務経済及び国内労務派遣専門委員会(中国労務派遣専門委員会)」を設置。nmsの現地子会社、北京日華材創は日系企業で唯一、同委員会のメンバーに選ばれた。

日系企業の海外進出に伴い、人材サービス業界もアジア市場に攻勢をかける

事務系派遣などにも新法成立?

 現在、同委員会は中国における製造請負のあり方も含め、中国独自の労働者派遣法を検討中。製造業派遣のみならず、ホワイトカラー系の人材派遣や技術者派遣も含めた業界基準の制定にも動き始めている。

 「今の中国の派遣市場は、ブローカーが横行しているような状態。法整備が進めば、日系企業も質の高い労働者を安定的に確保できるようになる」と中国で派遣事業を手がける日系企業関係者は話す。

 ただし、現地の日系人材サービス業者に対しては、法整備はプラスとマイナス両方の影響を与えそうだ。

 プラス面は、事業拡大のチャンスが広がること。現在、日系人材サービス業が現地で展開する業務は、人材派遣の仕組みが確立されていないこともあり、人材派遣ではなく、人材紹介が中心だ。

 日本での主力事業は人材派遣のパソナも、中国では今のところ、人材紹介や間接業務の受託を中心に扱っている。リクルートも今年に入って中国国内の数カ所で新たに事務所を開設したが、サービスは人材紹介が基本。インテリジェンスは10月に香港や深圳で事業を展開している人材会社4社を子会社化。日系企業の労務管理分野の相談事業などに乗り出したが、こちらも中核事業は人材紹介だ。

 今後、法が整備されれば、日系企業が従来型の人材派遣を現地で展開する可能性が見えてくる。だが、半面、関連法の制定が新たな規制の創設など各社の事業戦略に水を差す可能性も否定できない。

 中国独自の労働市場に対する法整備が追い風となるのか、ハードルとなるのか。それによって、日系人材サービスの今後の中国戦略は大きく左右されることになる。

(瀬戸 久美子)

日経ビジネス2011年10月24日号 16ページより目次

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